夏の鍛冶・午前
いつものように水汲みを終えて戻ってくると、朝の空気はかなり温んでいた。
夏の日は上がるのが早い。
朝食もいつもの通りに準備をし(その間に家族の皆は身支度を済ませ)、朝食を始める。
気温的には温かいスープがやや厳しい、と思うこともあるが、冷製スープのノウハウがあまりない。
冷やす、と言ってもトロルのいた穴か、〝世界の真ん中〟に持っていくしかない。
往復している間に冷たさも失われるだろうなぁ……。
ただ、氷室を作ったりなんかは少し考えておきたい。今のところは必要だったことがないが、そのうち水よりも低い温度での急冷が必要になるかも知れないし。
俺たち家族は、そういうことも話しつつ朝食をとりながら、一日の予定を立てる。
「今日は狩りに行くんだっけ?」
俺がサーミャに聞くと、彼女は首を横に振った。
「いや。今日は鍛冶だな。狩りは明日だ」
「なるほど。じゃあ、今日はナイフを頼めるか」
「任せとけ」
「他の皆はいつも通りでよろしく」
皆から了解の返事がきて、俺たちは残りの朝食をやっつけた。
神棚の前に全員で並んで、二礼二拍手一礼。魔法で炉と火床に火を入れ、工房の準備ができた。
「最近は暑いから、水分補給はこまめにな」
『はーい』
のどかな返事が揃って返ってきて、今日の作業が始まった。
炉はディアナ、リディ、ヘレン、アンネが担当し、鉄石から板金を作っていく。
俺とリケ、そしてサーミャは火床と金床を往復して、板金を加熱して叩く。
金床の音は高く、夏の空気に遠くまで通る。金属音がする間だけ、外から聞こえる虫の声が遮られる。
気温と火床、そして炉の熱で止めどなく汗が噴き出してくるが、集中している間は気にならない。
逆に言えば、一段落ついたら気になってきてしまう、ということでもあるが。
俺の場合、そのタイミングが金床で加工できなくなってきたあたりなので、その都度汗を拭って水を飲む。
作業場のあたりの気温はあまり下げたくないが、商談スペースあたりは冷やしても良いかもなぁ。
ここまで来られる人物であれば、多少の暑さはものともしないだろうが、それでも商談時には快適であったほうがいいのは言うまでもない。
俺たちの休憩スペースにもできるし。
「ようし、もう一踏ん張りだ」
益体もないことを一旦頭から追い出して、俺は再びヤットコでナイフの子供を掴んだ。
いくつかナイフを作って昼少し前。そろそろ昼飯の休憩なので、作業をいったん切って工房の扉を全開にした。
夏の光が床を走り、鍛冶場独特の匂いがふっと広がる。家族も皆作業を止めて、水を飲み、汗を拭っている。
その間、俺は台所に立って、昼飯の準備をする。準備といっても朝飯を温め直すだけなのだが。
出来上がった昼食を、まだ多少は涼しかろうということで、テラスに運び出す。
日が遮られて、風が吹くので、本当に多少だけマシなのだが、結局汗をかきかき、しっかり水分も補給しながら、午後への活力を腹におさめていった。




