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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第4章 魔物討伐隊遠征編
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 翌朝、一晩眠ってやや立ち直った俺は、朝の日課をこなして街へ行く準備をする。荷車に作った剣とナイフを積み込んでいく。このあたりの作業はもう頭が半分寝ていようともできるな。

 積み込みはいつも種類ごとにまとめて大きな布で簀巻きにして、ドンと置いて縄で固定する。ナイフは同じことを蓋のない箱に入れてやるだけである。この箱はカミロのところで買った小物(胡椒とか)を入れて持ち帰るのにも使うので、なかなかに重宝しているのだ。

 この荷車も毎度役に立ってくれているが、中古品でもあるし、ちょっとガタが目立つようにはなってきた。あと1回や2回の往復でどうにかなるというほどではないが、どこかで修理してやらないといけないとは思う。……チートを使えば作れそうな気がするが、流石にボールベアリングとか、トーションバー式サスペンションはやりすぎだよな。


 今日も荷車を引くのは俺とリケで、サーミャとディアナが護衛としてついている。緑色の風景の中を荷車がガタゴトと進んでいく。鳥の声以外には風が吹いた時に葉擦れの音がするだけなので、荷車の音が殊更に大きく聞こえる。

 往来するのが1週間に1度程度だし、元々この森の土は固いので、ほとんど毎週通るこの森の中でも、わだちは特に残っていない。"例の条件"がある以上、轍が残っていないことは問題ないのだろうが、頻繁に来るわけでもない客のことを考えると道を整備しないのが果たして良いことなのだろうか、というのはどうしても考えてしまう。別に野生動物が山道に近づかないということはないのだし、家から途中まででも整備を考えたほうがいいのかもな。


 今日も間に休憩を挟みつつ、森の入口まで無事にやってこれた。途中、サーミャが何度かコースを変えたりしたのはその先に何かいるからだろう。そういったことも考えると入口側に道を整備するのは難しそうだ。路上で出くわす時の対応がかえって面倒になりかねない。

 ここからはいつもどおり街道を行く。前の世界のローマ帝国のように石畳で整備されているわけではないが、十分に固められていて歩きやすい。見晴らしのいいところだし、衛兵隊が巡視しているので野盗もほとんど出ない。だが、殆どでないということは、たまに出るということでもあるわけで、油断はできない。いつもどおり警戒を怠らずに進んでいった。


 今日も何事もなく街の入口まで辿り着いた。衛兵さんがいつもの鋭い眼差しで通行人をチェックしている。確認する勇気はないが、多分普通にしてても犯罪者が分かったりするんだろうな。こっちをチラッと見て、幾分視線の厳しさが緩んだ衛兵さんと挨拶を交わして街へ入る。

 行き交う人々の足で十二分に踏み固められた道を行く。俺たちと同じような荷車や馬車もすんなりと走っていて賑やかだ。勿論、俺たちの荷車も街道以上に軽く感じる。あの壁の中は石畳で整備されていたりするんだろうか。俺は元々は街の外壁だった壁を見やりながら、そんなことを考えた。


 前回と違って、カミロの店に着いた後にやることはいつもどおりだ。いや、前回もそんなに大きく違ったわけではなかったか。店に俺たちが卸す量と、欲しいものの話をしたら、いつもなら後は雑談だ。今日は少しだけ違っていた。

「エイゾウのとこはたくさん剣を作るとなると、どれくらい作れるんだ?」

 カミロは俺にそう切り出した。

「品質を落として、なおかつ1種類でいいなら、普通の方は今の6倍近くはいけると思うが。高級な方を作らなくて済む分、作る量は増える」

 俺が一般モデルを量産速度優先で作ったら、おそらくはリケの2倍程度の速度で製作が可能である。と言うことはリケ3人分なので3倍の速度で、剣であればナイフを作る時間をまるまる剣にあてれば2倍で6倍である。

「なるほどな……」

 それを聞いてカミロが考え込む。

「入り用なんだったらやるぞ? ただし、他の納品は諦めてもらうことになるが」

「それなんだよなぁ」

 うーん、とカミロは悩んでいる。俺たちの商品を小売してるだけじゃないらしいので、そっちの都合をどうするか考えているのかも知れない。毎回全部買い取るということは、ちゃんと売れてるということだろうし。それなりの数を毎回買い取って、不良在庫をどんどん増やすほど、カミロは甘くない……と俺は思っている。カミロの商人としての才覚への信頼でもある。


 カミロはしばらくうんうん唸りながら考えていたが、やがて

「よし」

 と顔を起こした。即決のきらいがあるカミロにしては、珍しく長考していたな。

「次の納品は、全てロングソードでお願いできないか? 数は多いほど良い」

「さっきも言ったが別にかまわないぞ。来週の納品は、全部普通のロングソードでいいんだな?」

「ああ。ちょっと待っててくれ。すぐに戻ってくる」

 カミロはそう言うと部屋を出ていった。なんでそんな数が入り用なのかは気になったが、要ると言うなら要るんだろう。敢えて理由は聞くまい。


 はたしてカミロは宣言通りすぐに戻ってきた。手には2枚の紙を持っている。羊皮紙などではなく、亜麻や木綿なんかで作られたものである。そこにはいくつかの文章が書き付けてあった。

「2枚が同じことを確認したら、片方持っていってくれ」

 俺にその紙を差し出しながらカミロが言う。俺は書類に目を通した。その書類を要約すれば「来週までにありったけのロングソードを用意してくれ。その暁には十分に報酬を払う。支払いはロングソードとこの書類と引き換え」ということだ。カミロのサインも入っている。言うなればこれは発注書だな。報酬額が具体的に書かれてないのは、納品量をこっち次第にしてくれているからだろう。例えば50本、と具体的に書いてくれても良かったのだが、そこは不慮の事態の場合にカバーできるようにしてくれたと思っておこう。発注書にしては随分曖昧だが、持ちつ持たれつだ。

「確かに」

 片方の内容を確認し、もう1枚が同じ内容であることと、カミロのものらしき拇印が割印として押捺されていることを確認した俺はその発注書を懐にしまいこんだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 発注書、契約書とも言えない内容だけど、信頼関係があるからできるやり取りですね。
[一言] 数打ちの剣を出来るだけ沢山って、きな臭いなぁ…… マリウスがどこぞの領主と揉めたのか、それとも動員がかかるのか、いずれにせよ戦沙汰よね?
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