皇帝の剣
陛下の剣筋は、この感想が帝国で不敬罪になるかはさておき、豪放磊落を絵に描いたようなその性格に反して、流麗と言って良いものだった。
普段から標的として庭に立ててある丸太(ディアナたちの稽古にも使われるので、なかなかの使用感がある)に斬りつけて貰っているのだが、陛下の剣は撫でるかのように標的の周りを踊り、しかし、その柔らかさに反して丸太の傷が増えていく。
陛下に渡してある試作品は、長くて結構な重さがある。
つまり、簡単に言えばちょっと振りにくいのだ。それを軽々と手足の延長のように扱ってみせる様に、見惚れる人もきっと多いだろう。
陛下はそのまましばらく振るっていたが、やがて静かに剣を下ろした。
俺と、一緒に見守っていたリケは拍手をする。
「お見事ですね」
「なに、身体が覚えてくれているだけだ」
陛下はそう言うが、今は自ら剣を振るう機会がまずないはずである。なにせ皇帝だからな。
それでもあれだけの腕を維持出来ているのだ、往時はよほど腕が立ったのだろう。
「これならもう少し長くても十分扱えるかと思いますが、いかがします?」
「そうだなぁ」
陛下はゴツゴツとした手で顎を撫でる。しばらくの思案。
こう、「皇帝陛下の思案」と聞くともの凄く重要事に感じるな。国の命運を左右する、みたいな。
実際のところは「剣の長さ」という、まあ、真剣に悩むに値するが、世界どころか地域にもさほど影響しないであろう、ごくごく個人的な悩みである。
ごく個人的なことで悩むのも、陛下にとっては久方ぶりなのか、どことなく嬉しそうに見えるな。
「うむ、長くするのは止めておこう。これくらいで良い」
陛下は渡した剣を軽く振り回した。
「左様ですか。それでは、その長さで」
「うむ」
そう言って鷹揚に頷くが、すぐに剣を持っていない方の手で頭を掻く陛下。
「いやなに、これより長いとあちこちに引っかけるのでな」
「ああ、なるほど。それは大事ですね」
「そうであろう」
豪快に笑う陛下。俺とリケもつられるように笑う。
「さて、それでは早速取りかかりますが……」
ワイワイと聞こえてきた声に、俺は振り返る。狩りが終わってからの一通りを済ませた皆が戻ってきたのだ。
「先に皆の紹介だけ済ませますね」
「うむ」
ぞろぞろとやってきた皆を、俺は陛下に紹介していく。
「この虎の獣人がサーミャ、あ、そうそう、この娘が私の弟子にあたるドワーフのリケです。ディアナは……先ほどご挨拶しましたね。エルフのリディに、傭兵のヘレン。走竜がクルルで、森狼はルーシー、小竜はハヤテと言います。で、あの子はマリベル」
俺が紹介する度、陛下は鷹揚に頷き、皆も「どうも」などと返している。マリベル以外の娘達は鳴き声だが。
「ええと、それで最後ですが……紹介はいりませんね?」
「ああ。よぅく知っているからな」
ニヤリと笑う陛下。対するアンネの顔は真っ赤である。あんな怒り方するところは、はじめて見るな。
アンネは一度口を開いたが、言葉は何も発さず、その代わりに大きな大きなため息をついて、その後静かに、だが、力強く言った。
「それで、何が目的でしょう、お父様」
口調は優しくても、雰囲気は全くの真逆だ。クルルなどは思わず少し後退りしている。
言ってはいないが、俺はアンネの言葉の続きを聞いたような気がした。
それは、「事と次第によっては」だ。
皆の注目が集まる中、陛下は頭を掻くと、口を開いた。




