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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第15章 竜の目覚め編
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真ん中から〝いつも〟へ帰る

「……分かりました」


 俺は頷き、一家を先に帰らせた。皆が少し振り返りつつ森の小道を進んでいくのを見届けると、リュイサさんは表情を引き締め、低い声で俺に告げた。


「〝ワーム〟の件もそうだけど……最近、この森や〝大地の竜〟に関わることで、なかなか起きないはずのことが立て続けに起きているわ。竜が眠っているからといって、油断しちゃだめよ。私が言えた義理じゃないかもだけどね」


 少しおどけたような口調とは裏腹に、彼女の瞳は真剣そのものだった。

 そういえば、リディの住んでいた森も普通なら起きない、連続での魔物発生があったんだったな。

 俺がこの世界に来たことで、何らかの影響を及ぼしてしまっているんだろうか。

 いや、〝ウォッチドッグ〟は俺がこの世界に来ることでの影響はないと言っていた。それはないか。


 しかし、良くないことが続いているのは確かなようだ。


「……わかりました。気を配ります」


 俺がそう返すと、リュイサさんは満足げに笑みを浮かべた。


「ありがとう。あなたたちが気を張っていてくれるなら、この森もしばらくは安心できるもの」


 その声には、不思議と頼もしさと親しみが同時に宿っていた。

 俺は深く頷き、リュイサさんと共に森の奥へと視線を向け、そちらへと歩みを進めた。


 少し進むと、森の小道を進む家族の背中が見えてきた。俺は小走りで追いつき、「おーい」と声をかける。

 サーミャが真っ先に耳をぴくりと立て、こちらを振り向いた。


「エイゾウ!」


 続いてリケが振り返り、少し心配そうに手を振る。


「遅かったじゃないですか。リュイサさんと何を話してたんです?」

「ん、まぁ……森のことを少しな」


 俺が曖昧に答えると、ジゼルさんが横目でちらりとこちらを見て、口元だけで笑った。どうやら、誤魔化したつもりは通じていないらしい。

 それでも皆が特に追及することはなく、俺たちは家へと続く道を歩き続けた。


 途中、澄んだ水の流れる川辺に出た。

 いつも立ち寄る場所に似ているが、今日はひときわ空気が清らかに感じられる。俺たちは自然と足を止め、水辺に腰を下ろした。


「……ふぅ。ようやく一息つけますね」


 リケが両手ですくった水を口に含み、安堵の表情を見せる。

 ヘレンは大きく伸びをしてから、ぱしゃりと水を顔に浴びせた。


「やれやれだな。あんな気味の悪い魔物、久しぶりに見た」


「うん……でも、みんな無事で良かった」


 ディアナが柔らかな声で続け、サーミャもこくりと頷く。


「矢が通らない相手は勘弁だな。でも、最後はみんなで倒せた」


 ヘレンはワームを斬りつけたのが気になるのか、双剣を水につけた後拭いながらも、


「ま、ああいう相手こそ腕の見せどころだ」


 と涼しい顔をしている。


 マリベルは川面に足を浸しながら、リディに向かって笑顔を向けた。


「でもね、踊り、ほんとに綺麗だったよ! キラキラしてて!」


 リディは一瞬、恥ずかしそうに目を伏せたが、やがて小さく頷いた。


「……ありがとう。でも、あれは私の力じゃなくて、そういう〝役目〟だから」


 その言葉に皆の視線が集まる。リディはしばし沈黙した後、水面を見つめながら静かに口を開いた。


「私たちエルフの役目の一つは、〝大地の竜〟を起こさないこと。今日、改めてそれを思い出しました。昔はただの伝承みたいに思っていましたけど、こうして目の当たりにすると、やっぱり本当なんだって」


 彼女の声は小さいが、はっきりとした響きを持っていた。


「でも……私にとっては、みんなと一緒に過ごすために果たす役目です」


 そう言ってリディは振り返り、俺たち一人ひとりを見渡した。


「……リディ、ありがとうな」


 俺がそう返すと、ルーシーが尻尾をぶんと振り、クルルが喉を鳴らした。ハヤテは翼をぱたぱたと動かし、まるで同意を示すかのようだった。


 少しの休憩の後、川を離れ、再び家への道を辿る。

 やがて、見慣れた我が家の屋根が夕陽に照らされているのが見えた。

 自然と皆の歩みが速くなり、俺たちは家の前に全員で整列した。


「私もいいんですかね……?」


 おずおずとジゼルさんが尋ねるが、帰ってくるのは家族皆の笑みだ。

 

 そして、全員であのいつもの言葉を言うのだった。


『ただいま!』


日森よしの先生によるコミカライズ版の第28話①が公開されています。

https://comic-walker.com/detail/KC_002143_S/episodes/KC_0021430003500011_E?episodeType=first


おじさん'sと可愛いフレデリカ嬢をお楽しみいただければ。


15章は今回で終わりです。次回からは16章を開始する予定です。

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― 新着の感想 ―
リュイサさんが音信不通になってた件の説明が無かったと思うのですが、眠りが浅くなると出てこれないでしょうかね? あと、儀式の祭壇があるのに、お役目を果たすエルフが黒の森に集落作って無いのも不思議に思いま…
フレデリカ嬢ほんとに可愛いかった おじさん'sも楽しい表情が好き 漫画も購入して揃えるかな〜
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