ボウズと昼食
しばらくして他の皆もだいぶ食いつきが悪くなってきたようで、そもそものアタリも減ってきたので、昼飯にしようということになった。
皆、川から引き上げて、準備してあった敷物のところへ戻る。
少しだけ心配していたのだが、そこに放置してあった食べ物が荒らされているとか、そういうことはない。
かまどに火を入れ(少し迷ったが俺が〝着火〟でつけた)あらかじめ汲んであった水を鍋で沸かし、そこに肉や野菜なんかを適当に入れて、「いつもどおり」に近いものを作っての昼食の開始だ。
結局のところ、昼飯になるまでに俺が獲物を釣り上げることは無かった。何が悪いのかさっぱり分からないので、改善のしようもない。
これで飯を食っているわけでもないので、そういうものとしてこう、下手の横好きの趣味としてやっていければと思う。
まだ午後に釣れるチャンスも残っているし、そこに期待を繋ぎつつかな。
「まだ暑くなくて良かったよ」
手早く昼食を腹におさめた俺は立ち上がって伸びをする。そのまま見上げると、今日はいつにも増して雲の数が少なく、抜けるような青空が広がっていた。
川が近いせいもあるだろうが、時々そよぐ風には暑さがない。今のうちに来ておいて正解だったな。
「この森もそこそこ暑いものねえ」
俺のすぐ後に食べ終わったらしいディアナが座ったまま脚を伸ばして言った。今は野外だし、身内しかいないので、その辺の行儀は気にしないらしい。
前の世界で体感した、命の危険を感じるような暑さに比べれば、この森の夏は随分と過ごしやすい。幾分かは日射しが柔らかい上に、湿度がさほどでもないからだ。
それでもここに暮らしている人達にとってはそれなりに暑い……男性と女性ということで着ている服が違うのもある程度影響してそうだが。
「鍛冶場よりはずっとマシだけどな」
サーミャが言った。俺は笑いながら続ける。
「違いない。この森のどこかに火山でも無い限りは、この森の中でもあそこが一番暑いだろうな」
基本的には朝から夕方までずっと熱い鋼が存在する環境で、しかも決して風通しが良いとは言えない場所である。
そりゃあとんでもなく暑いのだ。それに慣れていれば、夏の暑さなどはどうということもない、というわけでもないようで、
「でもやっぱり作業としてそういう場所にいると思っていて暑いのと、日常のことをするときに暑いのとは違うわね」
アンネがのんびりと昼食を終えてから言い、家族全員がうんうんと頷く。この感覚も分からなくはない。
「ま、今年は暑さの様子を見つつかな。去年よりも暑さには慣れてるだろうし」
あまりに暑いようなら多少の涼を得る何か、扇風機とまではいかずとも、からくり的に風を送るようなものを考えても良いかもしれない。
「そろそろ準備もしなきゃなぁ。おっと、いかん。今日は休みだ休み」
気を緩めるとすぐに作業や生活の話になってしまう。俺は言ってから、竿を手に川へと戻った。