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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第14章 秘密のインク編
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【11巻発売記念特別編】〝黒の森〟から離れて

今回は特別編となります。内容は今現在の本編とは関係のない”IF”になりますので、ご注意ください。

「ふう」


 ドサリと荷物を背中から下ろし、俺は息を吐いた。その息は白く長い。

 振り返れば、森と広大な草原が眼下に広がっている。ポツポツと白いところもあり、書きかけの絵画のようだなと俺は思った。

 緑の髪にニット帽、そして全体的にモコモコした服でしっかりと防寒をしている少女が俺に近づいてくる。


「とうちゃん」

「おう、クルル。ちょっと待ってな、湯を沸かすからな」


 俺達は今、〝黒の森〟を離れて、この山に来ている。


 数日の旅程で遠出をした帰り道、出先での用事が思いの外早く終わったので、せっかくだからと観光がてら回り道をしたところ、さほど高くもなく急峻でもない山を見かけた。


「あ、山だ!」


 クルルがその山を指差した。都に行くときに見かける山をジーッと見ている時があるので、山が好きなのかもしれない。〝黒の森〟のすぐそばには山と呼べるようなものがないからな……。


「そう言えば、森でピクニックとか、街道そばの草原まで散歩したりとかはしたけど、山登りはしたことがないな」


 都から見える山もそこそこ離れているし、その山は遠くからでも急峻に見える。登頂するなら装備と技術と覚悟が必要そうで、覚悟はさておき、それ以外は現在の我が家にはないので、登ろうと思ったことはない。

 じっと俺の方を見るクルルと黒髪の少女(ルーシーである)、それにマリベル。リザードマンのハヤテはあまり興味がないような素振りをしている。


「日程的に余裕はあったよな?」

「ありますよ。かなり早く終わりましたから」


 俺の確認にはリディが答えてくれた。よし、それならば。


「ちょっと登ってみるか。森に帰ったら山に登る機会なんてそうそうないだろうし。大丈夫だよな?」


 今度はヘレンに聞いてみた。傭兵の彼女ならある程度は判断がつくだろうと思ってのことだ。ヘレンは頷いた。


「あれくらいなら、うちのおチビさんたちでも余裕だろ」

『やったー!』


 異口同音に喜びを叫び、ぴょんぴょんと跳ねて身体でもそれを表す娘たち。自然と我々〝親〟の頬も緩むというものである。


 そんなわけで、登ってきてしばらく。そろそろ一度休憩を挟もうとしているところだ。

 持ってきた


「時期的に防寒していたが、ちょうど良かったな」


 今の標高を考えると、下よりも極端に気温が低いということもないが、風が吹き付けてきたりと寒さを感じる要素はたくさんある。

 モコモコとした服は娘たちの体温が奪われることを防いでくれているようだ。

 何より可愛らしい。ママたちも同じ感想なようで、ディアナなどは「流石にそれは着せ過ぎでは?」というほど着せようとしていたりもした。


 少しばかりある枯れ枝を集めて火をつけ、石でちょっとしたかまどを作り、湯を沸かす。そこに茶葉を入れて煎じたら、めいめいのカップについでまわる。

 クルルとルーシーも、鼻の頭と頬を真っ赤にしながら、コロコロした格好でカップを差し出す。


「とうちゃん」

「はい」

「おとうさん」

「はい」


 マリベルのは彼女に合わせた小さいカップだ。炎の精霊である彼女に防寒は必要ないのだが、ディアナがせっせと作った服があり、今はそれを着ていてクルルとルーシーのようにコロコロしていた。


「ほい、マリベルも」

「ありがとう!」


 娘たちはキャッキャとはしゃぎ、「かんぱーい」とカップを軽く打ち合わせている。

 俺はそれを微笑ましく見ながら、自分でカップに注いだ茶を一口すすった。暖かさが喉を駆け下り胃の方まで達して、それが全身を回っていくような感覚になる。


「しかし、いい眺めだな」


 ちょうど開けているところで、思ったより遠くの方まで見えている。雪は昨日降ったものだろう、大部分は溶けていて、俺達がこれから進む方にもほとんど残っていない。

 しかし、広々とした眺めは荒涼感もあるが、自然の大きさのようなものを感じる。

 雪遊びは運が良ければ〝黒の森〟でも出来るが、この眺めはここでないと得られないものだ。


「すごーいね」

「ねー」


 娘たちもこの眺めは気に入ったようだ。連れてきてよかったな。

 家族みんなで、あれはきっと街道だろうとか、あそこは畑なんじゃないかなどとワイワイと盛り上がり、結局頂上まで行ける時間を過ぎてしまった。


 がっかりする娘たち。俺は娘たちに目の高さを合わせる。


「今日はここまでだったが、また来ればいいじゃないか」


 そう言うと、娘たちは揃って目を輝かせる。ママたちが困った顔で笑っているが、止めないということは問題ない……んだよな?


 こうしてすっかり上機嫌になった娘たちを先頭に、俺達はゆっくりと、眼の前に広がる景色を見ながら山を降りていくのだった。

本日1/10(金)に書籍版最新11巻が発売されました!


今回も書店様によっては特典がございますので、是非対象の書店様にてお買い求めいただければと思います。今回は通常版・特装版で店舗様ごとに共通となっております。


対象の店舗様や特典の内容など、詳細は以下のリンクにてご確認ください。

通常版

https://kakuyomu.jp/official/info/entry/kazisuro11

短編集付き特装版

https://kakuyomu.jp/official/info/entry/kazisuro11_tokusou

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