表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第14章 秘密のインク編
890/985

次の実験

 昼飯は朝と同じく樹鹿の肉を煮込んだスープだが、温めるときに香草を加えた。リディが育てたものだ。

 暖まったスープから蒸気と共に良い香りがたちのぼってくる。

 どことなく、ほっとさせるようなその香りに、今日の昼飯はいつもより少しだけ気分転換になってくれそうだぞ、と俺は思った。


「今日はどうだったの?」


 皿に盛られた料理から立ち上る湯気を見ながら、ディアナが尋ねてきた。


「まあまあかな。今は放置してるだけだが」

「放っといて何かわかるもんなのか?」


 ヘレンが興味深そうに首を傾げる。


「まあね」


 俺は既に伝えてあったリケ以外の皆に朝の出来事を話した。今朝羊皮紙を見てみると、昨日書いた文字が消えていたこと、今はそれが再現しないか試しているということの2つだ。


「一歩前進ですね!」


 リディが目を輝かせる。が、俺は首を傾げながら答えた。


「うん。でも、どうして消えたのかが分からなくてなあ。今、試してみてはいるんだが、変化が全くなくて、これで本当に分かるのか不安だよ」


 俺が苦笑しながらそう言うと、リディも眉根を寄せて微笑んだ。


 俺は昼飯を頬張りながら考える。 昨日と今日で、何が違うんだろう。羊皮紙を窓際に置いたのは同じ。天気も変わらない。気温も……。


「うん?」


 ふと、窓の外を見た。昨日の夕方、片付けた時にはもう日がほとんど落ちていたな。 

 朝見たときには窓から差し込む光は、当然ながら朝日だった。今は昼。これも当たり前だが、頭上から日が差している。


「もしかして……」

「なんだ? また何か思いついたのか?」


 サーミャが鋭い動物の勘で察したように耳を動かす。


「ちょっと思いついたことがある。夜まで待ってみないと分からないけどな」


 俺はそう言って似合わないウインクをしてみたが、返ってきたのはうへえと舌を出したサーミャの顔と、皆の笑い声だった。


 昼飯を終えて工房に戻った俺は、新たに羊皮紙を用意した。インクは底に沈殿していたので、丁寧にかき混ぜる。

 そろそろ、羊皮紙も仕入れておかないといけないかな。パピルスみたいなものとか、もっと短い繊維で製紙をしてみるのも良いかも知れないが、ここは追々考えよう。


「一応、先に確認しておくか」


 朝から置いていた三枚の羊皮紙を確認する。ある程度は想像していたとおり、窓際のも離れた場所のも、そして箱の中のも、どれも変化はない。文字は依然としてそこに残ったままだ。


「うん、まあこれはいいとして……」


 俺は新しい羊皮紙にインクで文字を書き、それを窓際に紐を張ってそこに吊るした。


「あとは、日が沈むまで待つだけだな」


 そう言って、俺は普段の仕事に戻った。特に注文が入っているわけでもないので、今日はナイフをいくらか作っておくことにする。


 ただ、時折窓の外を見に行っては、太陽の位置を確認する。庭で遊ぶ娘たちの影が少しずつ長くなっていくのを眺めながら、傾いていく太陽を追う。工房の中に差し込む光も、徐々に色を変えていく。


 俺は昨日からの出来事を頭の中で整理していた。文字が消えたのは朝方に気づいた。夕方には確かにあった文字が、いつの間にか消えていた。そして今、また同じ条件を作ってみている。


 もしかすると、これは面白いものが見つかるかもしれない。

 そんな予感を胸に、俺は夕暮れが近づくのを待った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=509229605&sツギクルバナー
― 新着の感想 ―
やはり私も「月の光」に一票かな? それも月齢とかまで厳密に指定されてたりするとロマンが爆増しちゃうなぁ。 夕日だと2番候補だなぁ、ロマン的に。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ