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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第14章 秘密のインク編
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光明

「で、ダメだったぽいな」


 ヘレンが今しがたスープを呑み込んだ俺にそう言った。

 俺は口を尖らせて返す。


「すぐに試せそうなことは全部やったんだがな。消えるか濃くなるか、どっちかはして欲しいもんだ」


 その様子を見て、家族が笑う。馬鹿にしているわけではなく、俺がわざと拗ねてみせていることに対してだ。


「ま、明日も色々試してみるよ」

「頑張ってくださいね」

「おう」


 リディに励まされ、俺は大きく頷いた。


「はてさて、何から試しますかね」


 翌日、朝の拝礼を終えて、昨日置いておいた羊皮紙のところへ向かう。もしかするとカミロに追加で色々頼まないといけないかも知れないな、などと考えながら羊皮紙を手に取り、そこで俺は気がついた。


「文字が消えてる……?」


 俺は目を疑った。昨日書いた文字が、跡形もなく消えているのだ。昨日試したものでは全く変化しなかったのに、一晩置いただけで文字が消えるものだろうか。

 いや、長時間経つと急に消えるという可能性もあるな。昨日は1~2時間ほどで確認を止めたが、もっと長く置く必要があるとか。

 昨日からこれまで何時間かかったのか、きっちり計っておけば良かった。


「親方? どうかしました?」


 準備を進めていたリケが不思議そうに首を傾げた。


「いや、昨日消えないって騒いでたんだが、今見たら文字が消えているんだ」

「え、そうなんですか?」


 俺は羊皮紙をリケに見せる。


「ここに文字を書いておいたんだが……」

「確かに。跡形もありませんね」


 リケは興味深そうに羊皮紙を覗き込んで言った。


「だよな」

「だとすると」

「うん、もしかすると見つけたかも知れない」


 俺は言った。少しだけ胸が躍るが、まだ喜ぶには早い。


「まあ、でも条件は全然分かってないからな。今日も色々試してみるよ」

「わかりました!」


 リケはそう言って笑顔で自分の作業に戻っていった。


 俺は早速、作業に取り掛かる。まず、同じインクを使って(沈殿していたので、攪拌する必要があった)新しい羊皮紙に文字を書く。


「まずは、今日最初に見た時みたいに窓際に置いてみるか」


 俺は一枚を窓際に置いた。


「比較対象も必要だな」


 同じように文字を書いた羊皮紙を、窓から離れたところに置いておく。

 時間のみが影響するなら、どちらも同じように消えるはずだ。

 それぞれ違う状態変化があるなら、時間以外に何かが作用していることになる。


「ああ、それと試していないことがあったな」


 それは暗所での放置である。文字を書いた別の羊皮紙を適当な箱に入れておいた。

 これで3つの変化の具合で多少は理解が進む……はずである。

 とりあえず、昨日変化がなかったことを鑑みて、いずれも長時間置いておく必要があるだろう。今はまだ朝だから、昼くらいまでおいておけば何らか変化が見られるかも知れない。


「よし、ちょっと手が空いたから手伝うか」


 俺は羊皮紙を後に、普段の作業をすべく鎚を取った。


 作業をしていると、昼を回ったので、それぞれの羊皮紙を確認してみる。

 だが、どの羊皮紙にも特に変化は見られなかった。昨夜見られた現象が再現できないのは、何か重要な条件を見落としているということだろう。


「うーん。天気は変わらないし、気温もそれほど変わらんみたいなんだがなぁ……」


 俺は昨日の工房での作業を思い返す。アルカリ溶液を試したこと、火で炙ったこと、日光に当てたこと……。


「もう少し時間を置いてみてみるか? ま、とりあえず飯だ飯」


 行き詰まったときの気分転換には飯を食うに限る。

 俺は昼飯の準備をしに、皆に声をかけてから、鍛冶場を後にした。

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― 新着の感想 ―
ファンタジー的な要素を考えるなら月の光とかだろうか……それだと今度は文字を視認する方法が難儀しそうだけど
光量の差分なのか、熱量の差分なのか、魔力量の差分なのか。
消えるだけでなく、任意で浮かび上がらせなければ意味が無いのでは?あぶり出しみたいに。
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