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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第14章 秘密のインク編
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納品物とお買い物

「街や都は特に何もないのか」


 出してもらった香草茶を一口すすりつつ、俺はカミロに聞いた。彼は頷く。


「そうだなぁ。表向きは何もない。裏もお前に話すようなことは起きてないよ。細々としたあれこれがあるのはいつものことだしな」

「そっちは俺も知ろうとは思わないよ」


 俺は肩をすくめた。都ではいつも主流派と公爵派の政治的な暗闘がマリウスを含む貴族の間で起きている……らしい。

 その規模の大小如何で俺にお鉢が回ってきたり回ってこなかったりするわけだが、幸い今は何事もないらしい。


 暗闘の一端を担っているのは王国で諜報機関(のようなもの)の長をしているルイ王弟殿下のようなので、俺にカリオピウムの依頼をしている以上、俺のところまで火の粉が飛ばないようにしてくれているのかも知れないが、そこは掘り返すだけ野暮というものだろう。


「何もないならいいんだ。あっても今はちょっと厳しいけどな」

「安心しろ。しばらくはなんとかするよ」


 カミロはそう言ってひらひらと手を振った。カミロとマリウスはなるべく俺を厄介事に巻き込むまいとしてくれる。それが無為に終わってしまうこともままあるが、そうしてくれるだけでもありがたいものだ。

 例えそれが純粋な友情だけではないとしても。


 そのあと〝金色牙の猪亭〟の様子や近頃の天気がどうとかの他愛もない話をしていると、番頭さんが戻ってきて今回の納品は終わりになる。


「では、こちらをどうぞ」


 番頭さんが俺に金の入った小袋を渡してくる。重さはいつもとそう違いはない。わずかばかり軽いかも、くらいだ。


「あれ、今回はドラゴンの素材も買ったし、むしろ足りないんじゃないかと……」

「いえいえ、あれはここにあってもとりあえず使い道のないものです。かと言って売り先もないし、捨てるわけにもいかないという代物ですので、お値段は格安なんですよ」

「つまり、うち以外には引き取り手がいなさそうだから、ということですか」


 番頭さんは回答はせず、ニッコリと微笑むだけで明言は避けた。ヘレンの気配は怒りを含んだのを感じたが、俺は小さく手を振って制する。

 ヘレンの舌打ちが聞こえると、怒りの気配が引っ込んだ。


「それではこれで。また次は2週間後かな。ああ、ものができたら持ってくるけど、そのときは……」

「わかってる」


 カミロは手を振った。俺は「それじゃ」と片手を上げて、家族と部屋を出る。


 俺たちは店の裏庭で娘たちと遊んでくれていた丁稚くんに礼を言って、少しばかりの銀貨を渡す。丁稚くんは今日も俺たちが見えなくなるまで手を振り続けていた。


 街を抜け、入口の衛兵さんに手を挙げて挨拶をし、街道に出る。もちろん、ルーシーは一団の護衛を続けたままだ。

 そこでヘレンが憤慨を口に出した。


「なんでナメられて文句言わなかったんだよ」

「あれはまあ、そう言っておいたほうが良いからでしょうね」


 アンネが俺の代わりに答えた。ヘレンの顔はまだ憮然としたままだ。


「ものがものですもの、売る先はたくさんあったはず。それこそ帝国に持っていけばお父様が二つ返事で買い取るでしょうね」


 アンネの父親とはもちろん帝国の皇帝陛下その人である。まあ、あの人の場合は有用かどうかよりも、面白がって買うだけじゃないのかという気もするが。


「そこで公にはいないことになっているにもかかわらず、王国、帝国、北方のいずれにも知られていて、かと言ってどこに属しているわけでもないエイゾウ工房に譲り渡したんじゃないかしら」

「王国の主流派に肩入れしてるとは思われてるだろうけど、これはカミロも侯爵とマリウスの主流派と懇意にしてるから、そもそもの行き先がそうなるのは仕方ない……と思ってもらいたいもんだ。どこに属するつもりもないのは事実だし、公爵派にも一番マシな行き先かもな」


 俺はアンネの言葉を引き取った。


「公爵派がそう思ってくれるといいわね」

「それを言うなよ」


 ニヤッと意地悪な笑いを浮かべたアンネの言葉に、俺は苦笑を浮かべ、それは家族全員の笑い声に変わっていくのだった。



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