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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第3章 エルフの剣編
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今回の商談

 道中で大きなハプニングもあったが、他には特に問題なく森を抜け、森の中とは違う危険が待ち受ける街道に出た。俺達はあからさまに目立つから、森の中以上に警戒する必要がある。

 サーミャが五感全てで警戒し、ディアナはさっきまでとは違う視線を周囲に向けている。リディさんも少し遠くを見やったりして警戒してくれている。やはり目が増えると安心感も増すな。

 ゴタゴタはあったものの、エイムール家の統治がちゃんと行き届いているのか、街道で特に大きなトラブルに遭うことはなかった。ここでなんかあったらディアナは気が気でないだろうし、ほんの僅かでも何かが起きないでいてほしいものだ。


 街の入口には今日も同僚氏でない人が立っていた。得物はまだ短槍で、ハルバードではない。この人の顔もちょっと覚えてきたな。聞いてみるか。

「こんちは」

「おお、あんたらか。こんにちは」

 衛兵さんは愛想よく、だがしっかりとリディさんの方を見て挨拶を返してくる。

「つかぬことをお伺いするのですが、マリウスさんと仲の良かった方は、どこかへ移られたのですか? あの方にも私の剣をお買い上げいただいているので、その後の調子などはいかがかと思いまして」

「ん? ああ。ヤツはマリウスに呼ばれて都に行ったよ」

「なるほど。それでお見かけしなかったんですね。ありがとうございます。また都に赴いた際にでも尋ねてみることにします」

「おう、そうしてやってくれ」

 そう言って俺たちは会釈をして通り過ぎる。今の衛兵さんの話だと、伯爵に呼ばれて行ってるのだから、栄転と言っていいのだろう。しかし、街の衛兵さんもまだ「マリウス」呼びなのか。ここらは規律が緩んでいるととるべきか、それとも衛兵時代からの付き合いからの親愛ととるべきかは、ちょっと難しいところだな。


 ざわざわと色んな人でごった返す通りを進む。やはりエルフであるリディさんが珍しいのか注目を浴びており、時折不躾な視線を隠そうともしない輩もいる。ただ、不思議なことにちょっかいをかけてくる奴は誰一人としていない。迂闊なことをすると酷い目に遭う――それが真実かどうかはともかく、希少性とも相まってか、少なくとも巷間には広くそう思われているようだ。自分が知っていることを相手も知ってると思う癖も含めて、割と普通の人(エルフだが)なんだけどな。

 しかし、これほど注目を集めてしまうと気が重くないだろうか。俺はそこだけが心配だった。


 やがてカミロの店につく。ここからは屋内だし、リディさんも少しは気が休まるだろう。いつもの通りに倉庫に荷車を入れて、商談室に向かう。今日はいつもより少し時間がかかってからカミロがやってきた。

「おう、忙しそうだな」

「まぁぼちぼちな」

 そう言えば、カミロはいつ来ても普通に自らやってきて相手をしてくれる。人や物の管理に集中して実務は全くやってないからなのだろうか。だとしても打ち合わせやら何やらと被ることはあるだろうに。その辺を聞いてみると、

「お前らが来るタイミングは大体決まってるから、そのあたりの予定を空けてあるだけだよ」

「もし来なかったら?」

「それはそれでやることがあるから、別に困らない」

「なるほどね」

 俺としてはなにか負担になっていると良くないと思ったのだが、どうもそんなことはないようなのでひとまずホッとした。


「それで今日の取引だが」

「ああ、まずはこいつだな」

 カミロが番頭さんに視線を送ると、番頭さんが手にした布の包みをテーブルに置いた。そこそこの大きさがある。番頭さんが包みをとると、縞状に青い部分の入った鉱石が転がり出てくる。

「これが?」

「そう、アポイタカラだ」

 これがそうか。なかなか手応えがありそうだ。今はミスリルに集中しているから、実際に扱うのはちょっと先にはなるな。

「手間を掛けさせてすまんな」

 番頭さんが再び包んでくれたそれを受け取る。

「その分はちゃんと貰ってんだ。気にすんな」

 カミロは笑いながらそう言った。


「欲しいものはいつもどおりで良いのか?」

「ああ。今回は納品の数が少ないから、万が一足りなかったら言ってくれ。その分は貨幣で払うよ」

 今までの実績から言えば、今回の納入量でも十分に賄えるはずだが、何らかの商品が値上がりしてたりするかも知れないからな。一応いくらかはお金も持ってきている。

「先週の半分もあれば余裕だから大丈夫だろ。足りなかったら次の納品から合わせて差し引くから貨幣はいらんよ」

「すまんな、助かる。それとだな。今は特注に取り掛かってるから、来週は来ないことにしようと思う」

「ああ、そうだったな。分かった。じゃ、うちの品も多めにしておこう」

「おう、ありがとう。さっきお前が言ってたとおり、足りなかったら次から引いてくれ」

「言われなくてもそうするよ」

 こうして今回の商談も無事に終了した。都の様子やそれ以外の様子をカミロから聞く。マリウスは元気にやっているようだ。ディアナもそれを聞いて安心したようである。ただ最近は辺境の魔物の動きが活発化しているようで、討伐軍が編成されるかも知れないという話である。エイムール家騒動のときの、カレルが言った魔物が湧いているというのはどうも嘘だったらしいが、それが現実になりつつあるわけか。大変だな……。そうなった場合に、カミロを儲けさせるためにはキッチリ納品していく必要があるな。なるべく増産できるようには準備していこう。


 その後も益体もない話をいくらか交わし、俺たちはカミロの店を出た。

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