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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第14章 秘密のインク編
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迷宮からの帰還

「いやあ、やってくれて助かるよ!」


 ルイ殿下は俺の肩をバンバンと叩いて喜んだ。これも外に出れば見せられない姿だろう。一介の鍛冶屋に王弟がまるで友人ででもあるかのように接しているのだから。

 それを言えば、今のこの状況自体あまり外に漏れていいものでもない。どこの誰とも分からない、王国出身ですらない人間に同行を許している。

 今回は表向き鍛冶屋としての同行でないのが救いだろうな。鍛冶屋として同行しているのなら、王家お抱えや都にいる鍛冶屋たちを差し置いてということになってしまうし。


 ともあれ、俺が今後すべきなのは、貰った金属を細かく砕いて水か油かに溶く。シンプルに纏めてしまえばそれだけの作業だ。まぁ、乾燥させることを考えると油に混ぜるのは避けたいが、金属というからには重いだろう。

 水だとすぐに金属が沈殿してしまって使い物にならないかも知れない。その場合は油など、少し粘性の高いものに混ぜて、すぐの沈殿を防ぐ必要がある。

 そこはまず試さないとダメだなあ。少しワクワクする部分でもある。


「そろそろ戻っても良い頃合いかな」


 ルイ殿下がアネットさんに尋ねる。アネットさんは小さく頷いて、


「問題ないかと思いますが、念の為に見てまいります」

「うん、頼んだ」


 アネットさんは素早くその場を離れた。今、ここにある明かりは1つだけだが、そう広くない空間を照らし、奇襲を防ぐには十分な明るさだ。

 俺や殿下、マリウスで都の噂話に興じる。北方からの荷物が増えて、都では北方の調味料がほんの僅かではあるが出回るようになってきたらしい。カタギリ家がカミロの店に融通しているのだそうだ。多分、我が家に売る分のついでだな。

 変わったところでは、このところの治安はどうか、とルイ殿下がマリウスにではなく、マリウスが殿下に聞いていた。国内外の情報を抑える機関の長に聞くのが早いのはそりゃそうか。


 ルイ殿下曰く、犯罪だと呼べるようなものも起きてはいるが目立って悪化しているわけでもないそうである。皆不安そうなのは確かだが、〝遺跡〟で危なそうなものは見つかっていないし、これ以上崩落が広がるようなことはない、とお触れを出せばすぐに落ち着く程度のものだろうというのが殿下の見立てだ。

 それを聞いてマリウスはホッと胸をなでおろしたようだった。自分に落ち度がなさそうとはいえ、管理している区域の出来事が原因で治安が悪化しているとか、聞かされたくないことには違いないからな。


「ああ、今のうちにこれをエイゾウくんに渡しておこう」


 ルイ殿下が懐から、各辺が3センチくらいのサイコロ状の物を取り出して、俺に差し出した。俺はそれを受け取って、残った明かりにかざす。

 明かりに照らされたそれは、ゆらめきに合わせて虹色の輝きが揺らめいている。


「それが例の金属、カリオピウムだよ」

「たしかに硬いですね」


 俺はそのカリオピウムを爪の先で引っ掻いたり、軽く爪で弾いて見たりしたが、その手応えから察するに硬さは相当なものがあるようだ。

 ただ、通常は硬いものは脆い。前の世界ではダイヤモンドが有名だが、ハンマーで思い切り叩けば意外と簡単に砕けてしまう。

 しかし、このカリオピウムについてはそういうこともなさそうだ。というのが鍛冶のチートが今俺に伝えてくれている情報である。


「とりあえず、色々試してみますよ」

「頼んだよ」


 そんな話をしていると、明かりが近づく。ヘレンが全く反応しないところを見るとアネットさんが戻ってきたらしい。


「外の様子をうかがって来ましたが、戻っても問題なさそうな刻限のようでした」


 明かりはやはりアネットさんだった。涼やかな声でルイ殿下に報告をする。


「よし、それじゃあ戻ろうか。触れはもう用意してあったね?」

「ええ。戻り次第出せるようになっております」


 打ては響く、とはこのことだろう。そう言えばアネットさんも王家の係累なんだよなあ。幼馴染的なものだったりするんだろうか。


「それじゃあ、英雄たちの凱旋だ! 残念ながら対外的には得られたものが何もないけどね!」


 にこやかに号令をかけるルイ殿下。アネットさんが大きなため息をついて、俺達は地上へ戻るべく、歩きはじめた。

次回は7/10で新刊の発売日になりますので、特別編を掲載予定です。


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― 新着の感想 ―
[一言] 製法が失われた特殊インクの作成とか、思いっきり影響を与えそうだけどその辺はもうふっきれたのだろうか。
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