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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第3章 エルフの剣編
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苦戦

 翌日、今日の見学者はリケとリディさんだけで、サーミャとディアナは「エルフの人がいるから」と果物やなんかを採取しにいった。こっちの世界でもなんとなくそういうイメージあるんだな。昨日の晩もリディさんは普通に肉食ってたのに、イメージというのはそうそう頭から離れないものである。


 まだまとまりきっていないミスリルの塊付き剣を、火床に突っ込んで加熱する。頃合いになったら、取り出して叩く。心なしかどんどん手応えが硬くなってきているようにも思う。その分まとまってきた感触もあるのだが、キラキラした粒子――魔力も少しずつ増えているような……。

「リディさん」

「はい。なんでしょう?」

「これ、魔力が増えてませんか?」

「増えてますね。さすがはエイゾウさん、魔力を織り込むのが非常に巧みです」

 ああ。これがそうなのね。鋼のときにもこんな感じの粒子がちょっと見えてたな。

「心なしか硬くなってきている気もするのですが」

「でしょうね。やはり貴方に頼んで正解でした」

 うんうんと、ただ1人満足しているリディさん。説明は特にない。リディさんはあれか、自分が知ってることは相手も知ってると思っちゃうタイプの人か。前の世界で勤めてた会社にもいたな。

 ともあれ、硬くなってきているのを否定しないということは、もしかして、この世界のミスリルは魔力を含むと硬くなるのだろうか。でも、細剣を作った時はこんなことなかったけどな……。

 とりあえずはそのことは頭から放り出して、魔力を含むと硬くなるということだけを考える。チートの力を集中して、鍛接が上手くいかないようなことがないように、丁寧に叩く。


 今まで意識はしていなかったが、どうやら俺はこのときに魔力を注ぎ込んでいるらしい。鎚を振り下ろすごとに当たった時の手応えが、ほんのわずかずつだが重くなっている。その分叩く力も増やしていく必要があるので、なかなかの重労働だ。

 作業を何度か繰り返す。その度に手応えが重くなっていったが、やがて重くならなくなった。もしかすると「魔力を織り込む」限界にきたのかも知れない。そうだとありがたい。これ以上重いと加工に苦労しすぎる。


 結局、鍛接が終わるのに昼過ぎまでかかってしまった。これはこの後の作業が大変そうだな……。少し遅めの昼食を3人で摂って、午後からは続きだ。

 ここからが本腰を入れる必要がある。火床で加熱をして、叩いて伸ばす。鋼のときと工程、内容としては何一つ変わりはない。だが、難易度が格段に違う。破片の接合の時もそうだったが、魔力を維持したまま加工可能な温度と、鎚を入れて大丈夫な箇所が非常にシビアで、大して伸ばせないうちに再加熱が必要なのだ。

「これは細剣の時以上に骨が折れるな」

 俺は思わず愚痴る。

「親方でも大変ですか」

「ああ。高いところに渡した細いロープの上を、全力疾走しろと言われてるようなもんだ」

 リケの言葉に俺は素直な心情を返した。ミスリルでこの調子だと、アポイタカラが来たときにどうなることか、今から気が重い。

 ふと見ると、リディさんが心配そうにこちらの様子を窺っている。いかん、クライアントがいる前でこういうことを言うのは、職人としての自覚が足りんな。

「時間はかかりますが、しっかり元には戻しますからね」

 俺はできるだけにこやかにリディさんに向かって言う。リディさんの表情が見るからに安堵している表情になった。よし、頑張ろう。


 この日、結局できたのは1/3ほど伸ばすことだけだった。まだ剣のかたちには程遠い。これでリケの勉強になっているだろうか。明日は街に行く日だから、明後日から剣を伸ばし終わるまでは、リケには製作をしてもらったほうが良いかも知れないな。ついでに、次に行くのは2週間後にさせてもらおう。リスクヘッジは多少過剰なくらいでちょうどいい気がする。生活資金ならまだまだあるし、そっちは焦ることもあるまい。


 採集に出かけていたサーミャとディアナが採ってきたのは、ブルーベリーのような果実と、ペパーミントっぽい匂いのする葉がたくさんだった。夕食の前に、小さい瓶に火酒を入れて、よく洗ったブルーベリーを漬け込んでおく。いくらかは今日の夕食の時のソースに使おう。ペパーミントっぽい匂いのする葉も、よく洗って少しかじると、前の世界のペパーミントよりも葉の匂いが強めにするが、ほぼペパーミントなので、明日の朝にでもこの葉っぱでミントティー風にするか。

 夕食のソースも、ブルーベリーそのものも、リディさんは勿論、全員に好評だった。火酒にブルーベリーを漬け込んでいるので、そのうちみんなで呑もう、と言うと、そちらもみんな目を輝かせていた。こういうところはリディさんも含めて全員女の子だな。中でもリケが飛び上がらんばかりだったのは、とりあえず目を瞑っておこう。こういうところはドワーフだなぁ……。

 この日の夕食はリディさんの里で食べていたものの話で盛り上がった。前に言っていたとおり、普通に鳥や鹿なんかも食べるらしい。ただ、里には結構大きな畑があって、根菜やら葉物野菜の割合が多めだそうだ。こうやって里を出たときの好き嫌いはない、と断言していた。


 さて、明日は街へ行く日だ。明後日からの作業もあるし、頑張らないとな。

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