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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第3章 エルフの剣編
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納品と入手

 ヘレンと別れた俺たちは、そのままカミロの店に向かう。卸す商品の種類が1つ増えてはいるが、手順自体は変わらない。倉庫に荷車を入れて倉庫番の人に挨拶をすると、2階に上がって商談室へ行く。

 そのまましばらく待っていると、カミロと番頭さんがやってきた。

「よう。調子はどうだい」

「まぁまぁだな。伯爵家出入りってことで信用が増えた分、商いも大きくなり始めてはいるよ」

「おお、良かったじゃないか」

 マリウスにとってはどうだったかは分からないが、少なくともカミロにはいい結果になっているようだ。

「今日持ってきたのはいつものか?」

「いつものと、ハルバードを5本ばかり持ってきた」

「ハルバード? なんでまた?」

「この街の衛兵さん用に、"伯爵閣下"に売りつけてほしいんだよ」

「ああ、なるほどな」

「いけるか?」

「大丈夫だろ。回す先は他にもあるし、うちで買い取るよ」

「そうしてもらえると助かる」

 これで商談成立だ。俺もカミロもマリウスが買わないとは思ってないが、万が一買わないとなっても、売る先があるならいい。

「それで今度はこっちの話だが」

 カミロは少し声を潜めた。

「変わった鉱石が欲しいって言ってただろ?」

「ああ。見つかったのか?」

「まぁね。まだ情報だけで入手はしてないが、"閣下"からの情報では、北方から流れてきた"アポイタカラ"が都の方にあるらしい。要るんなら押さえとくぞ」

 青生生魂アポイタカラ――前の世界では日緋色金ヒヒイロカネと同じものとも言われる伝説上の金属だが、この世界でのアポイタカラは北方で生産される鉄以上の固さを持ち、加工後も鈍く青く光る金属である、とインストールの知識にはあった。ヒヒイロカネほどの硬度はないが、十分に珍しい。

「いいね。押さえといてもらっていいか?」

「分かった。手遅れだった時はすまないが」

「見つかっただけでも十分だよ。それで、いくらになるんだ?」

「金貨3枚」

「それはまた、なかなか値の張る話だな」

 俺はヘレンの剣を打ったときの金と、こないだのエイムール家騒動の褒賞金で買えるから良いが、普通の鍛冶屋がおいそれと買えるような値段ではない。

「だが、それを金貨2枚にまけてやる方法がある」

「面倒事はごめんだぞ」

「なに、そんな面倒くさいことにはならんさ。伯爵閣下とは別のルートから真銀ミスリルを手に入れて、これを細剣レイピアにしてくれ、って依頼が来てるんだよ」

「なるほど、それの加工賃か」

「そういうことだ」

 原材料費抜きで加工賃で金貨1枚、なら悪い話ではない。ミスリルを扱う機会までついてくるわけだし。

「うちの工房の刻印を目立たないところに入れるのは大丈夫か?」

「ああ、それは問題ない」

「よし、引き受けた」

「じゃあ、そういうことで」

 カミロが番頭さんに目線を送ると、番頭さんは頷いて部屋を出ていった。その後は都の様子や、よその街の様子なんかの話をしていると、荷物の積み込みが終わったので、俺達も部屋を出て、そのまま倉庫の荷車を引き取って家に帰る。帰りは行きとは違う衛兵さんが立ち番をしていたので、会釈だけして通り過ぎた。


 帰りの街道は行きよりも緊張の度合いが大きい。ミスリルを積んでいるからな。4人もいて、護衛の2人も手練ではあるが、高価な素材は緊張するなと言われても無理だ。小物でも高価な素材があると分かれば、一攫千金を狙ってくることは十分ありえる。なるべくはいつも通りを心がけたい。

 時折カサコソと茂みが音を立てるが、サーミャ曰くはどれも「風か小動物」とのことで、森に入るまで何事も起こらず、俺はほっと胸を撫で下ろした。正直、野盗に警戒しないといけない街道よりも、気をつけないといけないのが熊くらいである森のほうが気が楽だ。


 結局のところ、特に何事もなく家に帰り着く。いつもの通り、食材なんかをサーミャとディアナに運び込んでもらい、鉄石と炭、ミスリルは俺とリケだ。ミスリルは銀色に輝いてはいるが、見た目は他の金属と大きく違うようには感じない。ちゃんと加工すれば薄く光るそうなのだが、今はそんなこともない。とりあえず今日は運び込むだけにしておいた。


 翌日、ミスリルが気にはなるが、1週間分の板金を作るほうが先なので、まずはそれから処理してしまう。4人で手分けして作業をしたので、結構な数を補充できた。


 そして更に翌日、いよいよミスリルの鍛造に取り掛かる。ミスリルの鍛造となると、そうそうあることでもないので、リケは半分手伝い、半分見学、サーミャとディアナは見学である。


 ミスリルをヤットコで掴むと、火を入れた火床で温度を上げていく。普通の銀だと鉄が加工できる温度まで上げると融けてしまうが、ミスリルは全くそんな様子もない。チートで加工可能な温度に達したことを見極めたら、金床においてハンマーで一打ちする。鉄とは違う、ガラスを叩いたときのような澄んだ音が鍛冶場に響く。普通の鋼ならこの一打ちでもそこそこ変形してくれるのだが、ミスリルは思いの外変形してくれない。

「これは厄介だな」

「親方の鎚でも難しいですか」

「ああ。ほとんど変わってない。加工賃もう少し分捕っとくんだった」

 俺がそうボヤくと3人がクスクスと笑う。それを聞きながら4~5度叩くが、もうそこで加工できる温度を下回った。俺は再び火床に突っ込む。

「これは大分手こずりそうだぞ」

「ミスリルですからねぇ。普通の鍛冶屋の手に負えるものじゃないですし」

「そりゃあそうなんだが」

 今まで鋼をヒョイヒョイと加工していたことを考えると、この手こずりようはなかなか歯がゆいものがある。

 そうは言っても着実に加工していくしかない。俺は火床から取り出したミスリルに再び鎚を振り下ろすのだった。


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