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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第12章 オリハルコンのナイフ編
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家路

「おーい、もう帰ってしまうのかい?」


 クルルに荷車を繋ぎ、さて出発だという頃にマリウスがジュリーさんを連れてやってきた。


「ああ、ここらでお暇させて貰うよ。今帰れば、日が落ちてそんなに経たないくらいには家に着くだろうし」

「仕事はないんだろう?」

「急ぎのはないな」

「それじゃあ、慌てて帰らなくても、もう一日くらいゆっくりしていけばいいのに」


 俺とマリウスがそんな会話を交わしている横で、女性陣は女性陣で別れを惜しんでいるようだ。

 俺はそれを横目にマリウスにニヤッと笑って言った。


「ちょっとあってね。森を長いこと離れるわけにもいかんのさ」


 一週間も離れてはいないので大丈夫だと思うが、妖精さんの誰かが例の病気にかかっていたら治療しなくてはいけない。

〝黒の森〟の中にいれば、リュイサさんが居場所を察知して教えてくれるだろうが、流石に〝大地の竜〟の一部とはいえ、樹木精霊ドライアドのリュイサさんが都まで俺たちの足取りを追えるとは思えないし、早めに帰るに越したことはない。

 崩れない魔宝石の作りかたを確立できれば、ジゼルさんに預けて行けばいいのだけれどな。


 俺の言葉を聞いたマリウスはしょんぼりと眉尻を下げる。


「そうか……。それじゃ、また。何か入手したらカミロに預けるよ」

「ああ、頼んだ」


 俺とマリウスは握手を交わした。次来るときは気楽に友人宅に遊びにくるとか、何かのお祝い事だといいのだが。

 女性陣もお別れは済んだらしい。まぁ、今生の別れというわけでもない。森から街へなら連絡手段もあるし、何かの折にふらっと遊びに行く予定(日帰りにはなるだろうが)を立ててもいいだろうな。


 リケが手綱を動かすと、クルルが一声鳴いて竜車が動き出す。俺たちはいつの間にか揃って俺たちに手を振ってくれるエイムール家の面々が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。


 人通りが余り多くない内街を行く。好奇心を含んだ視線が多少こちらに向かってくる。


「都を出るまでもう少し待っててくれな」


 俺は小さい声でそう呟いた。クイッと袖が小さく引っ張られるが、袖を引っ張った主の姿は見えない。

 今俺が話したのは念のためと布をひっかぶっているアンネではなく、マリベルだ。

 マリベルは炎の精霊だから、迂闊に人前に姿をあらわすと混乱を招くだろうということで、今は姿を消して貰っていて、返事は俺の袖を引っ張ること。肯定は1回、否定は2回だ。

 姿を消していても声は出せるのだが、うっかりにでも姿を出さないように、意識をなるべく姿に集中できるようにそうしている。


 やがて、クルルの牽く竜車は内街から外街への門を抜ける。差し出す通行証は例の「超つよい」やつだ。

 衛兵さんは一瞬目を丸くしたが、それも一瞬のことで、すぐに通してくれた。やや背筋をピンとしていたように感じるのは気のせいだろう、うん。


 外街は様々な人でごった返していて、相変わらずの喧噪だった。出来ればマリベルにもこの光景を見せてやりたいところだ……なにか手段は考えておこう。

 竜車に刺さる視線は、純粋に人が多いということもあるが、外街のほうが多い。竜車そのものが珍しいからであって、女性を沢山引き連れているからではないと信じたい。


「今回はおやっさんとこはなしかな」

「竜車、置いておくところないですからねぇ」


 サンドロのおやっさんがやっている、都の「金色牙の猪亭」にはなるべく行きたいところだが、今日は少し無理そうなので、これもまた次回までに手段(エイムール邸に預けていくことも含めて)を考えておこう。


 そして、船が行くように竜車は人をかき分け、大通りを家路へと進んで行った。

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