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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第1章 異世界での暮らし方編
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猫を飼う……?

 首元に不思議な感覚を覚えて、目が覚めた。いかん、完全に寝入っていた。

 あの子は大丈夫だろうかと目を開けると、当の本人が俺の首に片手をかけていた。


「まぁ、こうなる可能性も考えないではなかったが」


 俺は努めて冷静な声で言った。

 首にかけた手には力はこめられていない。本気で力を入れていたら、あえなく俺の2回目の人生は開始1日にして、寝入ったままあっさり終了していただろう。


「とりあえず、怪我は大丈夫か?」


 虎っぽい顔をして、こちらを睨みつけている女の子に声を掛ける。

 その言葉が予想外だったのだろう、一瞬キョトンとした表情をしたが、すぐにまた表情を戻して言った。


「まだ結構痛むけど、まぁ、治りそうだ」


「そうか、それは良かった」


 俺は心底ホッとして微笑みながら言った。助けようと思って助かったのだから、素直に嬉しい。

 すると、女の子は今度はキョトンとした顔のままで、


「お、おう……」


 と言った後、顔をそらす。この手を掴んで外すなら今がチャンスだろうが、それをしてこの子の機嫌を損ねるのは多分()()()()()

 彼女はパッと向きなおり、声にやや怒気をはらませて言う。


「アンタ……見たのか?」


 彼女の手に少し力が入っている。俺は最初よりも更に冷静になるよう心がけつつ答える。


「処置するのに必要だったからな。誓って言うが処置以外には何一つ触れてないからな」


「本当だな?」


「ああ」


 彼女はしばらくじっと俺の目を見つめていたが、やがてフッと軽くため息をつくと、俺の首にかけた手をひっこめた。


「とりあえず、信用するよ」


「そうしてくれるとありがたい」


「嘘をついたときの人間の匂いがしなかったしな」


「そんなのが分かるのかお前!?」


「犬系の獣人とは違って、大きく心が動いたときだけな。今、すげぇ驚いてるだろ」


「あ、ああ……」


 処置した時にいらん気を起こしてあちこち触ったりしていたら、さっきのタイミングで嘘がバレてお陀仏だったということか。2日目にしてやたら綱渡りさせられている気がするぞ……。

 俺は寝室を漁って、自分の着替えを渡す。


「とりあえずこれを着ろ」


「アタシの服は?」


「血でベトベトだったし、処置するのに脱がせる必要があったから切った」


「……そうか」


「大事なものだったのなら、すまない」


「いや、そんなことはない。ただのボロさ」


 今更ではあるが、着る間後ろを向いておいた。


「ところで、アンタはこの家の持ち主だよな?」


 着替えた女の子が質問してきたので、俺は彼女の方を向いて答える。


「そうだ」


「こんなとこで何してんだ?」


「鍛冶屋だ」


「鍛冶屋?」


「ああ。……とは言っても、昨日ここに住み着いたばかりの新参者だが」


 いつから住んでいることにしようか迷ったが、ここは正直に話すことにする。彼女はおそらくこの辺りを知っている。下手なことを言うのは下策だと思うからだ。


「こんな家、この森にあったかな……」


 しめた、彼女はここがどこか知っている。


「ん? 俺が昨日来たときにはあったぞ?」


 これ自体はほぼ事実だ。この家が突然()()()()()ことを除けば。


「まぁ“黒の森”のこっち側にはあんまり来たことないから、見落としてたのかも知れねーな」


 “黒の森”か。“インストール”された知識に該当があった。

 心の中でだけ拍手喝采だが、あまり大きく心を動かしすぎると、こいつに感づかれる。知識と地形を照らし合わせれば、ここの大体の位置はわかる。


「ここは東の方だからな」


「ああ。アタシは北と西でねぐらを回してるから、あまりこっちには来ない」


 良かった、合ってた。


「たまに来たと思えば大黒熊おおくろくまに出くわして……後はアンタの見たとおりだよ。ヤツがアタシにとどめを刺さなかったのは、多分アンタが近づいてくるのがわかったからだろうな」


「なるほどね」


 そんなヤバいのもいるのか。多分彼女は弱い方ではない。虎の獣人とは言え、女一人でこの森をウロウロするということは、少なくともそれをしても問題ない、身を護るすべを知っているということだ。

 だが、今は怪我も治りきってないし、ここで放り出すのもなんだかモヤっとする。そこで俺は切り出した。


「で、一つお前に話がある」


「なんだ」


「怪我が治るまでは暫くかかるだろ?」


「ああ、多分な。アタシたちは人間よりはだいぶ頑丈に出来てるが、このくらいの怪我だと、まぁ2週間ほどは狩りとか探索は無理だ」


「じゃ、ここに住まないか?」


「は?」


「別に何かあるわけじゃない。俺は越してきたばかりだし、これから先、()()手伝いも欲しい。お前は怪我を治さなきゃだし、治ってもしばらくはリハビ……“慣らし”がいるだろう?」


「まぁな」


「それに多分ここにいたほうが暮らしは安定すると思うぞ。少なくとも雨風しのげて煮炊きには困らん」


「なるほどな……」


 彼女はじっと考え込む。虎っぽいので単純にずっと見てたいのもある、というのは言ったら滅茶苦茶怒られそうなので言わない。


「わかった。怪我が治って、普通に動けるようになるまではここに住むよ。そっから先はそれから考える、ってのでどうだ?」


「おう、構わない」


「じゃ、そういうことで、よろしくな!」


「おう!」


 こうして、俺の「猫を飼いたい」という願いは、「虎の獣人の女の子と一緒に暮らす」という予想外な形でおそらくは達成されたのだった。

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― 新着の感想 ―
こいつ凄いな 疑うだけ疑って助けてもらったのにもかかわらず感謝の言葉が一つもない
現代の言葉が伝わらないのを理解してすぐ言い直すって、他の作品ではあんまりやってない事なので良いなあと思います。 わりかし異世界人なんでそんな言葉知ってるねんって作品多いから。
[一言] 助けて貰ってるのに偉そうな猫ですねw
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