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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第12章 オリハルコンのナイフ編
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都への道

 皆で取り急ぎ都へと出かける準備を済ませる。基本的には普段通りの格好に、上から少し厚手のマントを羽織るくらいなので、大きく時間を取ることはない。


 唯一、ヘレンが胸甲を身に着けていこうか少し迷っていたが、都までは全員で移動するし、都に着けば胸甲が必要になるほどの荒事はなかろうと判断して、置いて行くことになった。

 ヘレンの本領はその速さだしな。多少の防具をなしにしても速さを維持できたほうが、特に街中では良さそうな気がする。


「おや、アラシはまだいたのか」

「キュゥ」


 皆でバタバタと荷車の準備をする中、ハヤテの隣にアラシがとまっていた。休憩したらすぐにも帰るのかと思っていたが、もう少しのんびりしていくらしい。

 もしかすると都まで行けと言われている可能性もあるな。まぁ、アラシが増えたくらいではクルルの負担はそう変わらない。


「よいしょ、と」


 そのクルルと荷車をリケが繋いでいる。クルルも僅かばかり大きくなって、少しばかり留め具の高さが上のほうに来ていた。

 リケで手が届かない、ということは将来的にもなさそうには見えるが、厳しくなってきたら、誰か他の人間――勿論俺も含めての話だ――がやるようにしないとダメだな。


 オリハルコンのナイフ、〝神竜の爪〟は箱に入れている。箱とはいっても宝箱然としたような豪華な感じではなく、もっとシンプルなものだ。

 野盗が出たとして、わざわざ「ここに大事なものが入っていますよ」と教えてやる必要もないからな。

 一応カモフラージュも兼ねて、一般モデルのナイフを入れた箱もいくつか用意したが、〝神竜の爪〟の箱は勿論それしか入っていないし形も違い過ぎるので、持ってみたり中身を確認したら一発でわかってしまうので、まぁ、気休めだ。


 準備を終えた皆が竜車の荷台に乗り込んでいく。

 精神的にはまだ全然お子様だが、もうルーシーは体格的には大人の狼に近くなってきた。

 少なくとも彼女が荷台へ乗り込むとき、誰も手助けが必要かもと見守ることはなくなった。

 少し寂しいような気もするが、娘が成長した証でもある。喜ばしいことなのだと、少し言い聞かせ気味に自分の感情を抑える。

 ルーシーはそんな父親母親の思いを知ってか知らずか、ディアナの近くへ移動すると、その足もとに伏せた。

 同じことをルーシーが子供の頃にしていたら、きゃあきゃあと俺の肩のHPを順調に減らしていたディアナも、今は伏せたルーシーの頭を微笑みながら、ゆっくりと撫でるだけだ。


「それじゃあ、出しますよ~」

「クルルルル」


 俺たちはクルルに続いて気楽な返事をし、クルルの牽く竜車はゆっくりと〝黒の森〟の中を進んで行った。


 森の出口から街道にさしかかる。いつもよりだいぶ早い時間だが、春らしさはそこかしこにあって、一番顕著なのは街道脇の草原が青々としていることだろう。

 そこを冬よりも早く昇るようになった太陽が照らし、草原の所々が煌めいて水面のようでもある。

 渡ってくる風も冬のように身を切る冷たさはもうない。


「キュイッ」

「キュキュウ」


 ここでアラシとハヤテが鳴きはじめた。と、すぐにアラシが飛び立つ。声をかける暇もなく、アラシはすぐに天高いところまで昇る。

 アラシはくるりと俺たちの頭上で輪を描いた後、なかなかの速度で飛び去っていった。


「あれは街の方じゃないよな」

「うん。都のほうだ」


 俺が思ったことを口にすると、サーミャが答えてくれた。街と都は森の入り口から見るとそれぞれ反対のほうにある。

 アラシが街に行くなら、俺たちが向かっているのとは逆のほうへ行くはずなのだが、彼女は今俺たちが進んで行くほうへと飛び去った。つまり、都へ向かったのだ。


「と言うことは、カミロはもう都にいるんだな」

「そうねぇ」


 ディアナがルーシーの頭に手を置いてやりながら少しため息まじりに答えた。

 そりゃ自分がいないのに呼び立てするようなやつではないが、都にカミロがいる時、マリウスの結婚式以外では気楽な話がなかったのも間違いない話だ。


 要件のみが書かれていた手紙とも相まって、俺には都のほうの雲行きが怪しいように見えてくるのだった。

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