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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第12章 オリハルコンのナイフ編
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春の川

〝黒の森〟にはとても大きな湖と、そこから流れ出す水が作った川がある。

 さすがに海には面していないので、「春の海」はない。正月にテレビを見たり、スーパーに行くとメチャクチャ聞くことになるあの曲のタイトルを思い出す機会はあんまりない、ということだ。


 あちこち寄り道をしながら、今日は春の川に行こうということになった。マリベルがあまり川を見たことがないらしいことも大きな理由だが、一番はサーミャの、


「川の魚はこの時期のが一番美味い」


 の一言である。マリベルをはじめ、娘達はそれで大層乗り気になり、クルルには竿も持ってもらっている(無くても現地でなんとかしただろうが)ので、それを使って釣りと夕食の確保をするのだ。


 俺たちは何回か行ったことのある川原よりも川幅の広いところへとやってきた。相応に川原も広々としている。

 前の世界であれば立派なキャンプ場が出来ていただろうな。


「キャンプかぁ」


 この〝黒の森〟の内部なら、妖精さんたちに何かあっても多少は対応できる。

 あの病は超高濃度の魔力で満たされた空間があれば、そこに魔宝石が生成されるため、それで治療可能なはずだ。


 であれば、相当に広いらしいこの森の中を、3泊程度の予定でキャンプしながら見て回るのは「あり」なんじゃなかろうか。

 今しばらくの間は、その時間が確保できそうな感じはないが、秋くらいには行けるように段取りを進めようかな。


 さておき、川原には敷物が広げられて、そこに昼飯が入っているバスケットがいくつか置かれている。他の荷物は敷物の近くに並んでいて――武器は手放していない――少し離れた場所には火が熾っていた。


 ピクニック自体は何度も経験がある。なので、皆テキパキと準備を進めた結果、あっという間にこの場が整ったわけだ。

 今までと大きく違うのは、マリベルがいてくれることで火を熾すのが格段に早くなったことである。


「どう?」

「さすがだなぁ。助かるよ」


 エッヘンと胸を張るマリベルの頭を俺が少し乱暴気味に撫でてやると、彼女は満足そうにリケの所へ向かっていった。


 全ての準備が整ったところで、めいめいエサになる虫を探し、それを針につけて釣り糸を垂れる。

 川の水は澄んでいるので、おおよそどの辺にいるのか見えてはいるのだが、魚とてバカではない。

 こちらから見えているということは、向こうからも見えているので、いるからとそこにエサを運んでも、食らいついてはくれないのだ。

 というのは、こっちの世界に来てからディアナに教えてもらったことで、彼女も幼い頃に同じ事をして釣れなくて、憤慨していたところをマリウスに教えてもらったのだそうだ。


 そんなわけで、皆ある程度距離を開けつつ、春の陽気に緩んだ流れに釣り糸を任せている。

 そういえば、こっちに来てからそんなに経たない頃、サーミャやリケと釣りに行ったな。あれも春の頃だ。その時は特に意識もしていなかったが。


 あの時は当たり前だが3人だった。それが今や総勢7人である。何がどうなってここまでになったのか……。

 運命、あるいは〝ウォッチドッグ〟の悪戯と思いながら、俺はエサだけ取られた針に再び餌をつけて、川の流れの中へとそっと放った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 餌だけ取られたってことは、食い付きはしたのか…進歩してる!w
[一言] 何気ない風景ならクルルなど言葉を発しない皮膚感が欲しかった。
2022/12/22 01:43 退会済み
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