コミック3巻発売記念特別編「それは本当になんでもない日」
本日は「特別編」となります。
本編とはIFやパラレルのようなものになります。ここに出てくることが本編に影響するとは限りませんので、予めご了承下さい。
「そんなこともあったなぁ」
テラスで昼食をとっていた俺は、懐かしい思いでそう言った。
かなり以前にディアナの――エイムール家のゴタゴタを解決した時の話だ。あまり気分のいい結末ではなかったし、色々と疑問も残る話だったが、今となっては思い出の一つでもある。
なにせ俺とディアナが知り合うきっかけになった事件でもあるのだから。
事件の詳細はリディ、ヘレン、そしてアンネは知らない。もちろん、うちの“娘たち”もだ。娘たちはハヤテはともかく、クルルとルーシーは多分よく分からないだろうけど。
この話を持ち出した(詳細はボカして)のはディアナだった。もうかなり時間も経ってはいるのだけれど、それでも家族の話だ。不意に思い出すことがあるのだろう。
「結局、なんだったんだ?」
「立場というか身分的にも詳しいところは知らないほうが良さそうな話だったから、俺も詳しくは聞いてないんだよな」
サーミャの言葉に俺は肩を竦めた。
カミロから言われていた通り、あれは「最上級の貴族間のゴタゴタ」ではあったらしいのだ。だいぶ後になってから珍しく酔っぱらったマリウスから聞いた。
酔っていたのにそれ以上の話をしなかったのは、彼の自制心の強さもあるだろうが、俺には伝えない方がいいと強く思っていたからだろう。
マリウスが酔った理由は俺が北方の酒を手に入れて都に行ったときにしこたま呑ませてしまったからで、後で奥さんにそれとなく窘められたが。
「アンネはなんか聞いてなかったのか?」
「あったらしいことは耳に入ったけど、詳しい話は何一つ。私のところに来てない時点で余程なのね、とは察したけど」
アンネは横に首を振った。彼女は帝国で収集した王国の情報を知っている。最上級の貴族間で何かあれば、他国にも多少はその内容が漏れる。
ゴタゴタが起きたことだけは何をどうしても隠しおおせるものではなかったようだが、それ以上のことが何一つわからないとなれば、丁寧にやったんだろうな。
「今のところ特に何もないことを良しとすべきかな」
俺は目の前に広がる森を眺めた。一見すると何ということのない(こう言うとリケには「“黒の森”というだけで十分ですよ」と言われてしまったりするが)森も、今や警報だの罠だのが張り巡らされている。
それも年月を経て慣れてきたうちの家族の手によって強化されているものだ。生半可な兵力で来れば家を見る前に帰るハメになるだろうな。
それぞれ作動していた形跡もないらしいので、時折傷んでいるのを補修して回るのが、狩りをしない休日の“いつも”になった。ちょっと物騒な日常ではあるが。
「クルルルル」
森を見ている俺に、鼻を動かしながらクルルが顔を寄せる。視線は俺が見ている方だ。
じっと見ているので、何か見えるのかと思ったらしい。クルルの背中ではハヤテも目を細めるようにして見ているし、ルーシーは足元でしきりに匂いを嗅いでいる。
「ああ、なんでもないよ」
俺がそう言ってクルルの頭を撫でてやると、クルルは目を細める。すると、自分もとハヤテとルーシーが騒ぎ始めた。
「よーし、それじゃアタイと遊ぶか!」
「ワン!」
俺の足元で騒ぐルーシーの手(前脚)を取ってヘレンが言うと、ルーシーは勢いよく吠え、2人は庭へと駆け出す。赤と銀の疾風が過ぎたように感じるくらいの勢いだ。
ルーシーは身体が大きくなったこともあって外見的には可愛らしさはあまりなく、キリッとした顔が特徴のクールビューティーに育った……のだが、甘えるところは全く変わっていない。
変わっていないのは本気で走っている狼を見て「可愛い」と思ってしまう俺たちのほうもだけど。
「クルルもハヤテも行っておいで」
ディアナが優しくそう声をかけると、2人とも一声鳴いて参戦していく。
「私は畑の様子を見てきますね」
リディが言って、畑仕事が楽しくなったらしいサーミャが「アタシも!」と席を立った。
こうして何もない日の昼下がりがゆっくりと過ぎていく。出来れば本当に何もないまま、こんな日々が続けば良いのだが。
俺はそう思いながら、空いた皿をリケとアンネと一緒に片付け始めるのだった。
本日8/26にコミック3巻が発売になりました! 各書店様で紙の本、電書ともに好評発売中です!
日森よしの先生には描き下ろしも多数していただいておりますので、見かけられましたら是非お手にとっていただけますと幸いです!!
https://www.kadokawa.co.jp/product/322205000099/
第3巻の続きとなりますコミカライズ15.5話も公開されておりますので、併せてどうぞ!
https://comic-walker.com/contents/detail/KDCW_AM19201711010000_68/




