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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第12章 オリハルコンのナイフ編
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うちの娘

 エヘン、と胸を張る小さな姿。ユラユラと炎を纏ったその姿には完全に覚えがある。


「マリベル!」


 俺よりも早く大声を上げたのはディアナだった。なんだかんだで一番可愛がっていたしな。

 皆作業の手をゆっくり止めていく。パッと放り出すわけにはいかない。高温の物体を扱っているのだ、ちょっとしたことが大事故に繋がりかねない。

 その辺、皆言わずとも身についているようで、俺は変なところで小さな感動を覚えた。


 だが、冷静なわけではないのは、自分たちの手が汚れているのも気にせずマリベルをわちゃわちゃしていることからも分かる。

 マリベルも自分が多少汚れても気にせずにキャッキャとはしゃいでいて、身に纏う炎の勢いが増していることからも感情がよく分かった。


 皆がひとしきりわちゃわちゃし終わった後、俺はマリベルの頭に手を置いた。


「おかえり」


 マリベルはニシシ、と顔に満面の笑みを浮かべて、再び言った。


「ただいま!」


 そのとき、もう一つの気配が鍛冶場の中に現れた。しかし、俺の感覚に警戒せよという信号は伝わってこない。

 さすがにこれだけ近ければ、マズいものであればそれを感知できるし、なによりヘレンが瞬時に反応しているはずだ。

 だが、その彼女も大きくは動いていない。念のためなのだろう、俺と気配の間にそれとなく身体を割り込ませてはいたが。

 そのあとに


 気配が形を取る。じわりと空気からにじみ出るように現れた姿は、それもやはり見知ったものだった。


「リュイサさん」

「どうも~」


 そう言ってリュイサさんは小さく手を振った。“黒の森の主”たる彼女ではあるが、わざとなのだろう、威厳というものは感じられない。失礼な話だとは思うが。


「マリベルの……」


 そう言って俺はマリベルに視線を落とした。頭にはてなマークを浮かべた顔がそこにはある。

 俺はリュイサさんに顔を向ける。


「“うちの娘”の修行は終わったんですか?」


 それを聞いたリュイサさんはニッコリと微笑んで、頷いた。


「ええ。最低限、皆に迷惑をかけずに力を扱えるようにはなったわ。まあ、その後どれくらい伸びるかは、その子次第だけれど」


 再びニシシと笑うマリベルの頭をガシガシと撫でる。彼女はキャッキャとはしゃいでいるが、さて、いつまでこう喜んでくれるかな。

 そのうち洗濯物を分けろとか言い出さないだろうな……?


 そんな俺の胸に去来した杞憂をよそに、リュイサさんは話を続ける。


「炎の精霊として、うっかりここに火をつけたりすることは絶対にないわ」


 バチンと華麗にウィンクをしてみせるリュイサさん。俺やカミロがするのとは違ってなかなかに決まっている。


「それに……」


 リュイサさんは金床に置きっぱなしにしていたオリハルコンを手に取った。

 それはカミロから預かったときから一切形を変えていない。鍛冶屋としての敗北を示しているようで、少し苦い味が口の中に広がるような気がする。


「これの加工も出来るようになるかも知れないわよ」


 リュイサさんがしれっと言った言葉、その言葉に俺たちは一瞬あっけにとられる。


『ええ~~~~~!?』


 静かな“黒の森”の片隅にある工房に大きく響き渡る声。その中心になった、うちの娘はと言うと、えっへんと胸を張っているのだった。

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