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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第12章 オリハルコンのナイフ編

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冬の花

“黒の森”には色々な動物がいる。ということは、それを支える様々な植物もあるわけだ。

 この森には常緑樹が多い。最初は普通に種としての常緑樹が多いのかと思っていたのだが、どうも魔力の影響もあるらしく、リディ曰く、


「あの木は私のいた森では冬には葉が全部落ちていましたね」


 という木が結構な数あるようだ。それがこの森全体にどういう影響をもたらしているかは、森の精霊ならぬ身の俺には分からないことである。

 いや、リュイサさんに聞いても「わかんない☆」とか言われそうな気がするな……。

 それはともかくとして、時折季節外れなはずの果実が収穫できることがあるのも、その辺りの特性があるらしい。

 サーミャとしてはそれが当たり前だったので違和感などはなかったらしい。まぁ、「それが普通」であればそうなるのは当たり前ではある。


 俺だってリディに聞かなければ、この世界の植物はそういうものであると思っていただろう。インストールには動植物の知識があまり入っていない。

 致命的に危ない植物――前の世界で言うところのトリカブトとか――などはその葉の形なんかが入っていた。うっかり食ったり、薬として服用したりしてしまったらおしまいだからだろうな。


 ともかく、この“黒の森”ではエルフの種のように、季節が違っても果実が実ったりすることがある、ということだ。

 そうは言っても冬はピークではないということで、その数もかなり減るらしい。


「十分の一採れたら良いほうのやつもあるな」


 サーミャが言った。普段20個採れるとして、2個採れたら良いほう、というのはまとまった量を期待していいものではないな。

 実際、気温が下がって冬になってからは狩りのついでに採取する量は減っていたように思う。


「エルフの種もすぐに育ったりはしますけど、やっぱり冬よりは春や夏のほうが良く育つんですよ」


 とはリディの言葉である。安定して収穫できているように思ったが、そこはリディの腕によるところのようだ。手塩にかけて育てているだけあるな。


 そうやって皆でワイワイ歩いていると、ディアナがあちらこちらに視線を走らせているのに気がついた。カサリとでも音がすればそちらの方を見ている。

 我が家随一のかわいいものハンターであるところの彼女は、きっとなにかかわいいものを探しているのだろう。

 同じようにヘレンとアンネも反応しているのだが、彼女たちの場合は純粋に警戒だろう……と思ったが、特に何もないと分かるとその目にややガッカリした雰囲気が宿る。ディアナとあまり変わらなかったか。

 まぁ、結果的に周囲の警戒にはなっている。それに今日は狩りとかではなく、おかしなところがないか見回りのようなものなのだし、そっちでも無意味な行動ではないから、俺が目くじらを立てることもないな。


「あっ」


 そうやって木漏れ日の差す森の中を進んでいると、ディアナが声を上げた。ヘレンが腰の剣に手をかける。カチャリというかすかな音が俺の耳に届いた。


「あ、ごめんね。なにか危ないものを見つけたわけじゃないの」


 ディアナの言葉にヘレンは剣から手を離した。


「あれかな?」


 アンネが同じものを見つけたらしく、目の上に手を当てて眺めた。視線の先を俺も見てみる。


「うーん?」


 俺には何が見えたのかよく分からない。冬なのに青々としている葉が見えるだけだ。トトトとディアナが何かを見たらしいところへ近づいていく。


「お、おい」


 俺達はその後を小走りに追いかける。クルルとルーシー、ハヤテも一緒だ。


「ほら、あれ!」


 追いついた俺達に、ディアナは指し示した。その先を目で追うと、ほんの僅かに残った雪のように、小さな小さな白い花が集まって咲いている。

 全部を合わせても、普通の花よりかなり小さい。しかし、儚さや頼りなさのようなものは感じない。冬の寒さの中、これが自分たちの生き方であると言うかのようだ。

 俺はその姿を見て、あることに思いが至る。


「大きな木の中で寄り集まって生きてるのね。私たちみたいだわ」


 俺が思ったことを、ディアナが口にした。皆も同じことを思ったのか、頷いている。俺も頷きながら、


「そうだな」


 ピョンピョンと跳ねて一緒に見ようとするルーシーを抱っこしてやりながら、そう言った。


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― 新着の感想 ―
そういえば、魔力が満ちているから樹木も魔物化してトレントになったりしないのかな。 こういう日常のお話いいですね。
[良い点] 微笑ましいですね。楽しい回でした。
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