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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第12章 オリハルコンのナイフ編
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できること

「……大丈夫?」


 アラシを見送った俺に、ディアナが問いかける。ふと見ると、皆も少し心配そうに俺の方を見ていた。


「うん、まぁ、多少動揺はしてるけど、ジタバタしても仕方ないしな」


 俺は笑顔で答えたつもりだったが、妙な表情をしたディアナの様子を見るに、うまく笑えてはいなかったらしい。元々、笑顔が苦手ではあるが、今は多分そういう感じではないんだろう。


 森の中では打つ手も限られる。ネットのある前の世界ならなにかしら調べるなり、メールするなりして対応を考えられるが、そんな便利な手段が普及していないこの世界ではどうしようもない。

 せいぜいがハヤテに頼んで手紙をカミロに届けて貰うくらいだろうな。

 その状態でジタバタしたり、必要以上に気を揉んだりしてもあまり益は無い。慌てても仕方ないときには慌てない。前の世界の仕事で(ブラックではあったが)得た少ない役に立つ事柄の一つだ。


 そう思っているつもりだったのだが、どうやら心の底の方はそう思っていなかったらしい。


「いずれ偽物が出回るかも知れない、という可能性も考えてはいたつもりだったんだけどな」


 空を仰ぎ見る。アラシが切り裂いていった空はもう星が輝きはじめている。


「出所はもちろん知りたいところだけど、一番知りたいのは動機かなぁ……」

「動機ねぇ」


 ヘレンが言って俺は頷く。


「偽物を作るからには何か理由があるはずだ。それが俺達にとって好ましくない理由の場合もあるだろう」

「金儲けしたかっただけとかか?」

「そうだな。正面からぶつかり合うことになっちゃいそうだしな」


 サーミャの言葉に、小さく苦笑する。可能性として一番納得できて、かつ、あり得そうなところがそれだからだ。

 そしてその場合、同じもの(性能は違うが)を売っているもの同士、パイの奪い合いということになる。

 しかし、場合によっては一番話が早いかも知れない。例えば“一般モデル”より更に性能としては落とした、謂わば“大量生産モデル”とでも言うべきものを作って、カミロに卸し、カミロはそれを偽物ナイフの連中に更に卸し、それで金儲けをしてくれればよいのだ。

 うちの負担は増えることになるが、作る速度を上げて良いなら今まであまり手伝って貰っていなかったアンネにも積極的に手伝って貰えばいいし、義理も何もかなぐり捨てる勢いなら、都にいるカレンに頼んで作って貰う――一種のOEMのような体制もとれなくはない。

 最後のはそれをするくらいなら出来を見て弟子に取ったほうが早いだろうな。あまりにも打算的にすぎるのでそれもちょっと、と言ったところだが。


 ともあれ、金儲けが目的なら一緒にある程度は儲けさせてやり、それで丸く収まれば万々歳だ。それに……。


「ま、他に何か……そうだな、金儲けにせよ、その事情なら手伝ってやろうかな、と思えるようなことならそうするのも良いな」


 いささか上からの目線のきらいもあるが、とにかく事が穏便に収まるなら俺としては文句は無いのだ。少なくとも俺の脳は今のところそう言っている。心の動揺のゆくえ次第ではちょっと分からないけれど。


「甘いかな」

「甘いわね」


 ぴしゃりと言ったのはアンネだ。ほんわかした肩書き通りの見た目とは裏腹に、怜悧冷徹さを持ったアンネは商売敵を許しはしないだろうな。

 アンネはそこで大きくため息を吐いた。


「ま、でもエイゾウらしいんじゃない?」

「そうね」


 アンネの言葉をディアナが引き取る。サーミャやリケもうんうんと頷いている。


「結局、そんな状況で頼まれたら断り切れずに助けに行っちゃうんだろうしな」


 頷きながらサーミャが言った。うんうんと家族の皆が大きく大きく頷いた。心なしか娘達も同じようにしているように見える。


「とりあえずは出来ることもないし、明日の仕事に備えよう」


 俺がそう宣言すると、皆から分かったの声が返ってきた。

 俺は再び空を見上げる。寒空に浮かぶ月が、俺達を見下ろしている。願わくば、変な方向に転がりませんように。俺はそう、祝福を地面に降り注がせている月の女神に心の中でそっと祈った。

書籍版6巻が発売になります。

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― 新着の感想 ―
[一言] カミロが仲介的な立ち位置でそれぞれ別の商人に卸していたなら管理しきれないかもしれないけど 基本的にはカミロから直接買うモノ以外は偽物って感じである程度は妨害できたいかな? 商人は信用が命なん…
[気になる点] 世の中には恥という概念すら知らん人種もいるからねえ [一言] それが国家ぐるみとかだったら……
[良い点] エイゾウさんの居場所を知りたくて、偽物を流して追跡してたり?
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