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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第11章 北方からの来訪者編
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役割分担

「こうやって改めて見てみると、なかなかの規模だな」

「これくらいなら大丈夫でしょ」


 建築の前準備をした翌日、区割りを終えたところを眺めて言った俺の言葉にディアナが返して、俺は頷いた。

 女湯の方だけでもうちの倉庫くらいの広さがあるだろうか。逆に言えば、既に建築した経験のある大きさだということである。なので、そちらのほうはあまり心配していない。

 むしろ気になるのは湯船の方だ。それなりの広さを掘る必要があるし、そこまで湯を持ってこないといけない。魔力のおかげで中々冷めにくい湯なので、湯の流れるルートを確保してしまえばなんとかなるのが救いだな。


 湯船はとりあえずは大きな木の浴槽でよかろうということになっている。設置箇所を掘るのは縁の高さを下げて湯を流しやすくするためで、そのまま浴槽にしていくわけではない。

 前の世界の露天風呂よろしく、石で組もうかと思ったがやめたのだ。もちろん、この“黒の森”にも石はある。スリングの弾にしようかと思う程度には転がっているし、畑を耕したときにもそれなりの数が出てきた。

 しかし、大きな浴槽にするのに適した大きさや数が揃えられるかと言うと、若干厳しいのも事実なのだ。大きな岩でも埋まっていて、そこを掘れば浴槽になるのなら、こんなに簡単な(作業としては大変だが)ことはなかった。

 そこを愚痴っていても始まらない。俺はショベルを持つと、硬い土に突き刺した。


 掘るのは俺とヘレンの仕事である。通常このときに活躍するはずのクルルは、重機として建築のほうで頑張っている。

 力持ちチームの一角であるアンネも背の高さを活かすこともあって、建築のほうに回ってもらっている。サーミャとリケは俺よりも建築については経験があるので、2人も建築に回ってもらったのだ。

 まぁ、そんなに他のみんなとは離れていないので、もし厳しくなればサーミャかリケか、あるいはディアナの手を借りるようにすればいいだけである。


「よいしょ」


 ショベルに載せた土を、影響のない方に向かって勢いよく捨てる。掘り起こされた土がペイントのように地面の色を変える。掘り終わったら土を纏めてどこかに置いておかないとな。石もいくらか混じっているので、あとで大きめのものだけ適当に分けておこう。


 ヘレンの強さは速さにあることは間違いない。だが、速いだけで敵を打ち倒せるわけがないのも道理だ。彼女の引き締まった肉体はその膂力も十分高いレベルで備えている。

 今、俺の目の前でその力を遺憾なく発揮していて、大きなプリンをシャベルで食っていくが如き早さで土を掘っている。

 とは言え、俺が一度掘る間に二度三度と掘っていくヘレンも、体力が無尽蔵にあるわけではない。まぁ、無尽蔵でないかと思うほどであるのも事実なのだが。

 彼女が一息入れたところで、俺は話しかけた。


「いつも凄いと思ってたけど、久しぶりに相対してみると実感するな」

「なにを?」

「お前の速さと力だよ」

「そうかな?」

「傭兵に戻ったら引く手数多だろうな、と思うくらいにな」

「アタイはこういう何も考えなくていいのは得意だからね。あっちみたいなのも嫌いってわけじゃないけど」


 そう言ってヘレンは振り返った。向こうは向こうで柱を建てたり、筋交いを入れたり、板を切り出したりとワイワイやっている。

 陣頭指揮はリケが取っているようで、ごく狭い範囲ながらもあちこちに行って忙しそうだ。


「ここでのんびりしてるのも、実はアタイの性に合ってると思ってるんだよな」


 眩しそうに目を細めて、ヘレンは他の皆を見やる。


「ほとんど毎日、剣の稽古で身体も動かせてるし、クルルとルーシーもいるし」


 掘っているところへ向き直ったヘレンは、ザクッと音をさせてショベルを地面に食い込ませる。


「戦ってるのが嫌だったってことでもないけど、もうしばらくはここにいさせてくれ」


 ショベルに盛られた大量の土をヘレンは放る。力が入りすぎたのか、結構な広範囲にそれは散らばった。彼女は「あちゃー」と言って、ショベルを器用に使って掘った土が小山になりつつあるところへ纏めた。

 彼女がここにいたいのなら、それを断る理由は俺にはない。


「もちろん、追い出したりはしないよ」


 俺がそう言うと、ヘレンはにっこりと笑って、ショベルを地面に突き刺した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「家族」がそれぞれの持ち味を活かして、一つの目標に向かって共同で作業する様子は、何時も読ませて頂いていて嬉しくなります。 鍛冶仕事のみならず、エイゾウ工房の「家内制手工業」のレベルは高いで…
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