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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第1章 異世界での暮らし方編
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森の中で見つけたもの

 日が高いからか、それとも木の間隔が広いからか、森の中はめちゃくちゃ暗いというわけではない。


「それでも早めには戻ってこないとダメだろうな」


 そう一人ごち、手近な木に剣鉈で印をつけながら奥へ進んでいく。もうすでに家は見えなくなっているが、俺の体に"インストール"されている知識や経験があるので、家の方角はなんとなく分かっている。

 この辺の頭の中のズレは、少しずつ解消していかないといけないだろう。


 鍛冶屋の仕事の方でも、"前の世界"では全くの未経験の俺だ。おおよその仕事は"インストール"された分でもできるとは思うのだが、そこは俺の記憶にはない部分である。

 そういったズレを日々の作業で解消していかなければいけない。


 ただ、そこに不安はあまりない。今こうやって森を探索している間にも、知識や経験が少しずつ体に馴染んでいくのが分かる。

 とは言っても、何のタイミングでズレが戻って、家の方角が分からなくなるか知れたものではないので、念の為に木に印を入れていくことは止めない。


 また、その道すがらに頭の経験が教えてくれる解熱や傷の化膿止めに用いる薬草なんかをポケットに入る分だけ摘んでいく。確か家には無かったはずだ。

 「確実に取りにいける薬草」というのは、この世界ではなかなかに重宝することは間違いない。ここは結構いい場所かも知れない。


 そうこうして、体内時計で小一時間ほども経った頃、水があるらしい音が聞こえた。こっちの世界では貴重になる給水ポイントを見つけたようだ。

 音のする方に向かうと、果たしてそこには湖があった。俺のいる方は下流らしく、少し遠くに湖水が流れ出ていく川が見える。


 反対側の岸辺はここからでは見えないので、結構大きな湖なのだろうか。ここまでは道中は薬草やらなんやらを探り探り来たので、他には目もくれずに来れば、おおよそ15分程度でたどり着くだろう。

 これでおそらくは水については解決だ。毎日何往復かしないといけない可能性はあるが、一日の大半をあの家で過ごすことを考えれば、ちょうどいい運動になるだろう。明日から早速日課にしたい。


 ついでに湖を覗き込んでみた。水に映っているだけなので分かりにくいが、どうやら俺の年齢は希望通りの30歳くらいらしい。

 まぁ、それなり以上の腕の鍛冶屋(にしてくれたと思っているし、“インストール”の経験と知識ではそうなっている)で、しかも最近引っ越してきた、となれば20歳やそこらでは説明がつかない。


 どこかで修行を積んだ後、なにかから逃れるようにしてこの地にふらりとやってきた鍛冶屋、くらいのカバーストーリーがなくては怪しいにも程があるだろう。あってもそれなりに怪しいのに。


 まだ日が沈むには早い、と身体が教えてくれているので、もう少し湖のほとりを探索する。水辺を歩きつつ、時折立ち止まって水の中に目を凝らしたりしていると、いくつかの発見があった。


 まず、ところどころにキイチゴのような実をつけた低木や、リンゴのような実をつけた高木がある。"インストール"された知識によれば、これらの果実は食べられるらしい。

 食材のストックはまだあるし、確保した食材を持ち帰るための道具を持ってきていないので、今日のところは諦めることにした。


 目を凝らして水の中を見ると、湖の水はここで湧いているようで、今ここからは見えないが、もしかするとこの周囲の何処かに山でもあるのかも知れない。水は綺麗で、魚が住んでいる。これも釣ったり漁をしたりする道具を持ってきていないので、今日は獲ったりはしない。後日の楽しみだが、鍛冶屋をやってて果たして釣りや漁を楽しむ暇はあるのだろうか。


 生計は鍛冶屋でたてるのだから、当然本来はそっちが忙しくてそんな暇もないのがいいには決まっている。まぁ、もしそうなってから定休日を決めて、その日にでも来ればいいか。ワーカホリックよりスローライフだ。


 そうこうしているうちにいい時間になった、と身体が告げてくれているので、もうすぐ戻るか……と思ったとき、草むらの陰に横たわる何かを見つけた。150cmくらいあるだろうか。

 ()()の動物だとしたらかなり大きい。俺は慎重にその動物に近づく。


 陰でよくわからないのだが、頭は犬か猫っぽく、全体のシルエットは人間に近い。その肩らしきところが荒々しく動くのを見て、俺は少し急ぎ気味に近づいていく。確実に俺の足音は聞こえていると思うのだが、その動物はやはり息を荒げたような動きのまま動かない。


 手が届きそうなあたりまで来ると、全貌がわかった。その動物、いや、動物と言っては失礼かも知れない。その()()は虎っぽい頭をした、獣人族だったからだ。


 細いがつくべき筋肉がしっかりついている、革鎧をまとった身体のあちこちに傷を負って、苦しそうにしている。うつ伏せに倒れているにもかかわらず、脇腹の革鎧が裂けているのが見える。

 そして、その周囲は赤黒くなっており、そこから派手に流血しているわけではないが、一番の深手であろうことは“インストール”がなくても一目瞭然だ。


「これは今すぐ運ばないとヤバいな」


 俺は正面から抱き起こす。すると、そこには革鎧に覆われてはいるが、思ったよりしっかり張り出した胸がある。

 ギョッとしてしまったが、そんなことをしている暇はないので、脇に頭を入れ、体全体を肩に担ぎ上げた。前の世界で言うところの"ファイヤーマンズキャリー”である。


「女の子ならお姫様抱っこのほうがロマンチックなんだろうが、こっちのほうが速いからな。すまんが我慢してくれ」


 その見た目に反して、軽く担ぎあげることができてしまったのにも驚いたが、俺は急いで“家”に戻るのだった。

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