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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第10章 “黒の森”の主編
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次のいつもを

 我が家の要塞化計画はさておくとして、とりあえず整備しておきたいものがいくつかある。


「クルル達の小屋と倉庫への渡り廊下なぁ」


 サーミャがスプーンを咥えて言った。いつもならリケがたしなめるところだが、彼女は今4杯目の火酒で肉にとりかかっていて、忙しいらしい。


「うん。近くに温泉が湧くなら、そこに湯殿を建てるだろ? あとからそこにも繋ぎたいし」

「湯殿?」


 スプーンを咥えたまま首を傾げるサーミャ。


「……ろくに人っ子の来ない“黒の森”の中だといっても、周りから丸見えのところで風呂に入るわけにもいかんだろう? ちゃんと目隠しになるような建物を建てるんだよ」

「へぇ」

「服の脱ぎ着もその建物で出来るようにすれば便利だろ? 俺も皆も家にいる間、何も気にしなくて済むようになるし」


 今は各自の部屋で体を拭いているので、部屋に侵入でもしなければ女性陣の裸を見てしまうことはない。それに長い時間、部屋にこもるようにもしている。

 しかし、俺が部屋の外に急ぎの用事(だいたいは生理現象だろう)があって、その時に何かで出くわしてしまわないとも限らない。

 だが、建造物として独立していれば、その心配もほぼ皆無になるわけである。俺も気兼ねなく家の中をウロウロ出来る。


「そういうもんかね」


 鼻の頭にシワを寄せてサーミャが言った。俺が最初に助けたときには見たかどうか気にしてたと思うが、これは家族に対する気安さのあらわれだろうか。嬉しいような、引っかかるような微妙な気持ちである。


「そういうもんだ。まぁ、温泉の場所が確定してから全部まとめて建ててしまうのもありっちゃありだが、1日じゃ絶対無理なんだし、必要だと分かってるなら今のうちに建てられるものから建てていったほうがいいんじゃないかと思ってな」


 あれだけの魔物を倒したのだ、しばらくは湧いてくるまい。であれば、当面はいつもどおりの納品をしていれば事もなしのはずである。後々必要になると分かっているものをさっさと片付けるなら、そういうときにやっておくに限る。……とか言ってると忙しくなっちゃったりするんだけど。


「後から渡り廊下を追加で建てると、形がいびつにならないですか? 最初からきれいな形に設計したほうがいいかも知れませんよ」


 静かな声でリディが言った。後付けの施設に何らかの無理が生じるのはよくあることなのは否定できない。


「畑のど真ん中とかでもない限りは結構融通がきくんじゃないかな、と思ってるんだけど、甘いかな」


 俺がそう返すと、リディは細いおとがいに手を当て、つぶやくように言う。


「ここの庭、広いですからね……」

「温泉が湧くところがちょっと離れてるとかだと、そんなに長い渡り廊下は建てないでおこうってなって、待ってる時間もったいないかもだし、近場なら調整出来るからさっさとやっちゃいたいな、なんて」


 何となく、欲しかったカメラを追加購入すべく奥さんにプレゼンしている旦那のような言い方になってしまった。心境的にはさほど違いはないが。


「どのみち必要なのは確かですし、必要になってから慌ててやるよりはいいかも知れませんね」

「だろ!?」


 少しの時間考え込んでいたリディの言葉に、俺は思わずテンションを上げてしまう。リディは「困った人だなぁ」とでも言うように、クスリと笑う。


「皆もいいかな」

「アタシは構わないよ」

「親方の言う方でいいですよ」

「私も絶対にやっておきたいことはないし、良いわよ」

「アタイも」

「住みよくなるのなら私も賛成」


 積極的かはともかく、皆賛成してくれた。これで倉庫のものを出し入れするときにも雨を気にしなくて済むようになるし、クルルたちの小屋へも雨の日だろうと気軽に行けるようになる。そうして、晴れの日も雨の日も、同じようにいつもの暮らしが出来ればいいな。

 ささやかな生活向上ではあるが、俺は出来てからのことを思いつつ、どういう計画にしようか、考え始めるのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 鍛冶小屋がだんだんと森の中の隠れ宿的な何かに…
[良い点] 他の作者の鍛冶屋とは違い 真面目に鍛冶屋をしている描写がある [気になる点] 冷間鍛造が、まだ出て来て居ない [一言] 何度も読み返し飽きない 更新頻度が早い 小説も漫画も良い
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