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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第10章 “黒の森”の主編

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夜の話

「そんなに身構えなくても大丈夫よ」


 月明かりの中、リュイサさんはそう言って微笑んだ。そう言われたからとあっさり信用できるかと言えば、それは別の話だが。


「立ち話もなんですから、あちらへ」


 俺は手でテラスへと促した。あそこにはまだ椅子が出してあるはずだ。


「それじゃ、お言葉に甘えて」


 リュイサさんは俺の前を歩き出した。別に隠している施設ではないし、場所は分かっている、ってことだろう。

 トーガのようにも見える服をまとった背中を無防備に晒しているが、これが俺への信頼なのか、それとも俺が危害を加えられないと分かっての自信なのかは分からない。

 一応ナイフは懐に忍ばせてあるが、こいつの出番があるとしてもリュイサさんに向けることはないだろう。“森の主”とやりあって勝つ見込みがわずかでもあると思うほど、俺は無邪気じゃないからな。


 俺とリュイサさんはテラスの椅子に向かい合って座る。前の世界でちょっと見た対談番組のようでもある。

 リュイサさんは、ほうと息を吐いてから言った。


「さて、それじゃあ始めましょうか」


 俺は頷いた。はてさて、一体どんな話が飛び出すのやら。


「こうやって2人だけで話ってことはある程度分かっていると思うけど、エイゾウくんの身の上のことよ」

「でしょうね」


 他に俺以外が聞くとまずそうな話はない。


「まず、もう言ったけど、あなたがここで暮らしていくことは“森の主”たる私もだけど、本体の“大地の竜”も認めているわ。『元はこの世界の人間でない』としてもね」

「ありがとうございます」


 俺はその言葉に頭を下げた。とりあえずここに居ていいお墨付きがあれば怖いものはない。こうなったら、侯爵閣下なんかのほうが厄介とさえ言えるだろう。

 そうは言っても、だ。俺のそんな心を知ってか知らずか、リュイサさんは言葉を続ける。


「で、その上でなんだけど」


 そら、来なすった。


「時々、ジゼルちゃんでも他の妖精族の子でもいいから、とにかく妖精族に『前の世界の知識』を教えてあげて欲しいのよ」

「前の世界……ですか」

「ええ」

「それを知ってどうするんです? この世界の技術ではたとえ魔法があっても、実現不可能なものも多いですが」


“万年時計”のように電気を用いないが精巧な機構や、ちょっとした電気仕掛けのものならなんとか可能かもしれないが、階差機関以降のコンピュータは無理だろう。

 動力も蒸気機関くらいまでで、内燃機関までは到達できまい。魔法か何かで機関内部で爆発を起こせたとしても、普通は必要な精度で部品が製作出来ない。

 将来的に可能になるとして、今知る意味ってはたしてあるんだろうか。言い方は悪いが、江戸時代の人間にスマホの話をしたところで意味があるとも思えない。

 それに、だ。


「私としては、あまりこの世界に影響を及ぼしたくないのですが」


 そのために、板バネのサスペンションを導入するか迷ったし、井戸に手押しポンプをつけることも見送ったのだ。

 ウォッチドッグの説明から言えば、俺1人がジタバタしてもさほど世界に影響はないのだろうけどな。それでもわざわざ時計の針を俺の指で進めるような真似はしたくない。


「なるほど。エイゾウくんは生真面目なのねぇ」


 うふふ、とリュイサさんは笑った。


「そう言うだろうとは思ってたけど。だから妖精族の子に、って話なのよ」


 リュイサさんの言葉を俺は一瞬飲み込めず、目を白黒させた。しかし、少し考えれば分かることだった。


「妖精族の言うことを信じるような人はそうそういないから……?」

「ご名答」


 俺の言葉にリュイサさんは音をさせずに手を打ち合わせた。


「そもそも存在を知ってる人がそんなにいないし、この世界ではよく分からない理屈を言ったところで“妖精の戯言”と思われるのがオチでしょうね」

「この世界では実現不可能なものも多いですが、逆に言えば実現可能なものもあるんですけど……」

「そういうのは基本漏らさないようにするし、漏れたところで“妖精が授けてくれたインスピレーション”にカウントされるでしょ。いずれエイゾウくんが気に病む必要はなくなるわけ」

「ふむ……。そうそう、大事なことを聞いてませんでした」

「なにかしら」


 リュイサさんは微笑みを絶やさず言った。そこになにか裏の意図を感じる人間であれば、相当に警戒しそうな微笑みだ。


「そもそも、この依頼の意味はなんですか? どこに漏らすでもなく、単に情報をおさえておきたいだけなら、他にも方法があるのでは?」

「ま、普通はそう思うわよね」


 リュイサさんは頬に手を当ててため息をついた。


「これはどちらかといえば“本体”の要求なのよ。なので、細かいところまでは私もわからないのよね」

「“大地の竜”の?」

「ええ。そして、私はそのごく一部に過ぎない。私から“本体”の全てを把握することは不可能なのよ。エイゾウくんには申し訳ないけどね」

「いえ、それは仕方ないです」


 とはいえ、だ。そうなると「よく分からんがとにかく教えてくれ」という話になる。ここまで誰にも言わずにいたことを、じゃあ、と教えていいものだろうか。

 俺がウンウン唸っていると、リュイサさんは小さく笑った。


「返事は今でなくてもいいわ。後日、温泉の水脈を教えるって言ってたわよね? そのときジゼルちゃんにでも返事をしてくれれば、私に伝わるから」

「……わかりました」


 それじゃあね、とリュイサさんは手を振り、姿が掻き消える。俺は椅子に深く座り直して大きな大きなため息をつくのだった。


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― 新着の感想 ―
「妖精なら伝わりにくいし漏れても戯言と思われる」なら 他の方法とかじゃなく「じゃあ教えなければいいだけ」という根本の疑問が解消してないのでは 少なくも今まで基本的にはそうしてきたので変化を起こす理由が…
多分この世界は長い間停滞しているのでは 千年単位で何も変化が無く展望も無いなら劇薬を入れる検討もするだろう 魔法文明は魔法に頼るから物理技術が発展しないという設定もよくある
[気になる点] 話の立て付けのための会話、みたいな違和感がぬぐえなかったかなぁ 何がどうすればよいとかは分からんのだけど、 それぞれの思考に自己がないような、会話だなってかんじ。 創作って難しいね
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