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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第10章 “黒の森”の主編
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残りの報酬

 温かいお湯の湧く水脈、つまりは温泉である。俺はおぉ、と思ったが、家族の皆はいまいちピンと来るものがないらしく、キョトンとしていた。俺は元日本人として大変に喜ばしいのだが。

 リケも実家近くに温泉があったと言っていたが、しょっちゅう行くものでもないので実感がないのだろう。俺が「冬くらいにはできればいいな」くらいのつもりでいたので、あまり熱心に普及活動に励んでいなかったせいもある。


「あ、あれ?」


 思いの外、反応が薄かったことにリュイサさんが困惑した。場が急に静まり返る。どうしたもんかな。


「それがあると嬉しいのか?」


 助け舟はサーミャから出た。俺は大きく頷いて肯定する。


「冬の寒い時期に温まるのはもちろんだが、この暑い時期でも湯に身体を浸けて汗を流すのは気持ちいいぞ」

「北方の風習か」

「いや……まぁ、そんなようなものかな」


 もちろん、この世界にも入浴の概念が皆無なわけではない。だが、貴重な燃料を使って大量の湯を沸かして浸かり身体を清めると言う行為が、上流階級はともかく庶民の間で日常的にできるかと言うと無理なので普及はしていない。


「ありがたく頂戴します」

「喜んでもらえるようでよかった」


 リュイサさんがほっと胸をなでおろす。俺としては大変ありがたいのは事実だ。温泉掘りと湯殿の建築が待っているのが何だが。


「それで、最後はお腹の膨れる話……と言っていいのかしらね」

「おっ」


 思わず声を上げたのはヘレンだ。ここまでの報酬については、傭兵としてはあまりうまみのあるものではない。“黒の守り人”が案外役に立つのではと思うのだけどなぁ。

 だが、直接的な報酬があるとなれば別だろう。ガメついというよりは、単に成果に見合う報酬を、ということだろう。実務的とも言えるかも知れない。


「金貨……は流石に用意できなかったから、いくつか宝石を渡すわね」


 そう言って俺の前に差し出されたリュイサさんの手のひらに、赤や青、あるいは緑の宝石が数個現れた。

 なんかもっと概念的なものか、あるいは貴重な金属でもくれるのかと思っていたので、ある意味では拍子抜けだが報酬に貨幣かそれに替えられるものを用意するのは当たり前と言われればそうである。


「“森の主”で“大地の竜”といえども、私はそのごく一部だから、今用意できるのはこんなものだけどね」


 そう言ってウィンクをするリュイサさん。詳しい価値はカミロのところへ持っていって鑑定してもらわないといけないだろうが、結構な価値になるんじゃなかろうか、これ。

 腹の膨れない報酬(それにプラスして居住権の認定)もあるし、辞退しようかとも考えたが、背後からくるプレッシャーに負け、


「では、こちらもありがたく頂戴いたします」


 と、俺は押しいただくようにそれを受け取った。受け取った宝石類をすぐに後ろにいたディアナに渡す。横からアンネが少し覗き込んで、目を輝かせていたので、ざっとした価値は後でアンネに聞けば分かるかも知れない。


「それじゃ、みんな疲れてるでしょうし、今日のところは帰って休むといいわ。水脈の位置については後日、ジゼルちゃんか誰かをやるわね」

「ええ。今日明日必要なものでもないですし」


 リュイサさんの言葉に俺は頷いた。地図かなにかでも良かったし、口頭で伝えてくれても良いと思うのだが、詳しい場所を知らせるのにそれでは何か不都合があるのだろう、と俺は思うことにした。


「今回は本当にありがとう」


 リュイサさんが手を差し出す。俺はその差し出された手を掴み、握手をした。何度目かの拍手が起こる。


 その時、リュイサさんは拍手に紛れて、俺にだけ聞こえるような声で言った。いや、言ったというのは語弊があるかも知れない。彼女は口を動かさなかったからだ。しかし、


「ちょっとお話があるから、また今晩ね」


 その言葉はハッキリと俺に届いたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ついに風呂、というか温泉かあ…… [気になる点] >今日のところは いやまあ、深い意味はないんだろうけどね [一言] さてどんなお話があるのやら
[気になる点] 最後はお腹の膨れる話 って、てっきり家周辺の土地(主に畑)が、促成栽培地とかにでもなるのかと思ったら、単に懐の膨れる話だったでござる。 [一言] 混浴展開待ったなしですな。 クルルとル…
[一言] こちらの世界の住人となって生きるのであればちゃんと生き物としての指名を果たせ、とかそんなのかな。有り体にいえば子孫を増やせ、と(笑)。
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