ささやかな報酬
拍手に包まれて空を見上げる。日は中天を過ぎていたが、暮れるにはまだまだ時間がありそうだ。
リディの案内でまっすぐ目的地に進めたのと、ヘレンたちのおかげであっさり片付いたのが大きいだろう。俺1人では相当に苦労していたに違いない。家族には感謝しないといけないな。
明るいところに出てみると、ヘレンの防具には細かいキズがたくさんついていた。全て華麗に避けていたように見えても、ずっとギリギリのところを行っていたんだな。
汚れ具合については洞窟を進んだのもあって、クルルやルーシーも含めてみんなどっこいどっこいだ。帰ったら早速井戸が大活躍しそうである。
怪我はしていなくとも汚れと疲れでボロボロだ。しかし、その顔は成し遂げたことでキラキラと輝いているように見える。
俺たちはリュイサさんの前に横一列に整列する。盛り上がっていた場が静まり返った。
俺は一歩前に出てリュイサさんの目を真っ直ぐに見て言った。
「ご依頼、これで達成でよろしいですね?」
「ええ。もちろん」
リュイサさんはニッコリと微笑んだ。後ろでサーミャたちが「やったぜ!」と手を打ち合わせている。妖精さんたちも再びワッと盛り上がっている。
ニコニコと微笑んだリュイサさんが、なんでもないことのように言った。
「あなたたちは依頼を達成したのだから、ちゃんと報酬は支払わないとねぇ」
そうだ、すっかり忘れていたが報酬だ。俺としては、事情を知っているのに見逃してくれている時点で貰っているようなものなのだが、まぁ、他の家族の手前それをいうわけにもいくまい。
それはそれ、これはこれとして受け取ろう。
「まずは腹の足しにもならない報酬からね」
リュイサさんはお茶目っぽくウインクをしながら言った。彼女は表情を引き締めると、続けて宣言する。
「あなたたちには“黒の守り人”の称号を与えます」
“黒の守り人”。“黒の森”と掛詞にしているのだろうか。リュイサさんの言葉に合わせて、ジゼルさんを含めた数人の妖精さんたちが俺達の前に並んだ。リージャさんとディーピカさんもいる。
妖精さんたちは黒っぽい金属製の小さなブローチのようなものを手にしていた。ヒーターシールドのような形状に、木の意匠が盛り込まれている。彼女たちはペコリと一礼すると、俺達の胸元に(胸甲をつけているヘレンは肩口に)それをつけた。
「これをつけていれば、この森で襲われなくなる……なんてことは残念ながらないけれど、この森の妖精や精霊たちはあなた達のお願いをなるべく聞いてくれようとするし、他所の森でも一目置かれるからね。他所の森で樹木精霊や古老樹たちに会ったら見せてごらんなさい」
なにか名前だけかと思ったら、一応それなりのメリットはあるらしい。他所の森で使うことはないだろうし、そう願いたいところだが。
「“めんどくさがりの鍛冶屋”が珍しく気合を入れて作ったんで、売ったり捨てたりしないでくださいね」
離れる前に、クスリと笑ってジゼルさんが言った。めんどくさがりだから、俺が妖精さんたちの製品を作ったら喜ぶだろうと言っていた人か。
元よりこうして貰ったものを捨てる気はない。俺たちが成し遂げた証でもあるのだし。めんどくさがりが頑張って作ったと聞いては余計に捨てたりする気にはならない。
そういえば、クルルとルーシーはどうしたんだろうと思って少し振り返ると、2人は首からペンダントのように提げてもらっていた。ルーシーなんかはいつにも増して誇らしげに胸を張っている。
「後はそうねぇ……どっちから言おうかしら」
リュイサさんがおとがいに手を当てて考える。
「それじゃあ、こっちからかな。少しは“森の主”らしいところを見せないとね」
キラキラと、しかし少しいたずらっぽい表情を浮かべるリュイサさん。“森の主”らしからぬ軽い感じだな、とは内心思っていたが気にしていたのだろうか。
いや、違うな。あれはそれっぽいことをしたいだけだろう。
「と言うことで、あなたたちのお家の近くの水脈のうち、お湯が湧くものの場所を教えてあげましょう!」
どうだ、と言わんばかりに胸を張るリュイサさん。ルーシーも「わん!」と一声上げて対抗するように再び胸を張るのだった。
明日2/27にコミック第1巻が発売となります!
早いところではもう入荷していると思いますので、ご確認いただけると幸いです。
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