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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第9章 伯爵閣下の結婚指輪編
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森の家

 森に入ると、そこは俺たちにとっても妖精さんたちにとっても勝手知ったるところである。

 言い換えれば、妖精さんたちにはあまり面白くないところではあるわけだ。


「帰ってきた、って感じしますね」

「ここのほうが馴染み深いですからね」


 ディーピカさんの言葉に、リディが応える。リディも出身はこの森ではないのだが、森の住人として何か共感するところも多いのだろう。

 リディの生まれ育った森にはもう彼女の暮らしていた里はない。ここに来るきっかけとなったホブゴブリン発生事件のあと放棄されてしまったからだ。

 そんな彼女が「馴染み深い」と言ってくれたことが、俺は純粋に嬉しかった。


 家に戻ったら購入したものを家や倉庫に運び込む。妖精さんたちにここを手伝わせるわけにいかないので、クルルとルーシーの相手をしてもらうことにする。

 お客さんだから、というよりは荷車の荷物を運ぶのが物理的に厳しそうだからだ。

 そういう魔法でもあれば手伝ってもらえるのかもしれないが、そこまでしてもらうのもなぁ、といったところである。


 荷物を運び終えて、昼食にする前に、リージャさんとディーピカさんの体調を確認する。


「頭や身体のどこかが痛いとか、フラフラするとか熱っぽいとかあります?」

「いいえ」

「私もありません」

「朝と比べて、身体がだるいとかもないですか?」

「魔法を使ったぶん以上はないですね」

「わたしもです」

「ふむ。身体の異常を感じたらすぐに言ってくださいね」


 妖精さんたちは俺の言葉に頷いた。まだ予断は許さないが、彼女たちが帰るまでに森の外に出る予定はないし、あと数日様子を見て平気なら大丈夫だろう。そうなれば無事退院ということになる。

 とりあえずは昼飯だ。俺は準備をしようとして、ふと立ち止まった。


「しまった、折角だから街でなんか買ってきて、妖精さんたちに食べてもらっても良かったな」


 めったに口にすることはないであろう、街の普通の食べ物でも良かったのでは、ということに今更ながらに気がつく。

 ものを作ることに関してなら、鍛冶仕事ほどでないにせよチートが働くので、俺の作る料理はその辺の料理人に負けない出来になっている。

 まんまズルをしているので、喜んで良いかどうかは微妙だが、マズいメシで精神が削られていくよりは余程良かろう。


「それはどうかしらねぇ……」


 体を清める水を汲もうとついてきたアンネが、ボソリと呟いた。


「エイゾウの料理を食べた後で、街の普通のものを食べさせてもね」

「それはそれで風情がないか?」

「まぁ、分からないではないけどね。味よりも気持ちの問題もあると思うわよ。貴方が作ったものだから食べたい、というのは」

「そういうもんかね」

「そういうもんよ」


 俺はなんとなく気恥ずかしくなって、そのままピャッと台所に引っ込んだ。


「ええと、うちではこの後は何をしてもいい時間ということになってます」


 昼飯が終わったところで、妖精さんたちに説明をする。


「夕食の時間までは、好きなことをしてくださって結構ですので」


 大抵サーミャ、ディアナ、ヘレン、アンネは弓や剣の稽古、リディは畑の世話、リケと俺が鍛冶場で作業だったりする。

 最近はサーミャ達が畑の世話を手伝う機会も増えてきたそうだ。植物が成長していく様をみるのは楽しいもんな。

 ヘレンは稽古相手としてはちょっと強すぎる面もあるので、ディアナとアンネで稽古するときには、よく“娘達”の面倒を見ているらしい。


「あんまり疲れると体に良くないかも知れませんので、出来れば安静にしておいて欲しいところですが……」


 俺はそう言ったが、妖精さんたちは首をブンブンと横に勢いよく振った。

 まぁ、そうだよな。体調も悪くはなさそうだし、普段とは環境が違うのだ。今のうちに見ておきたい物事も多かろう。


「わかりました。好きにしていただいて大丈夫ですが、何かあったときのためにすぐに誰か呼べるところにいてくださいね」

『はい!』


 2人揃って良い返事をしてくれた。俺は小さくため息をついて、「それじゃ、夕方まで自由時間とします」と宣言する。

 その言葉で、家族たちは三々五々やりたいことをしに散らばっていった。


 さて、俺は俺で自分のやりたいことをしますかね。鍛冶場で何か作業をするのだろうリケを従えて、俺は鍛冶場への扉を開けた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] エイゾウも「家族」たちも“黒の森”での生活にすっかり馴染んで、平穏な暮らしを大切に想っていることが伝わってきます。 なので、命を助けてくれて、そして今のささやかだけれど温かい幸せを与えてく…
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