材料の確保
「なるほど。うちで育てているものにはないですが、森を探せばあると思いますよ」
テラスでの夕食の時に、リディに相談してみると、そんな答えが返ってきた。
前の世界でもインディゴは藍なんかの植物から抽出されて染料として用いられていたから、似たようなものもあるだろう。そう言えば、夏休みの自由研究で草木染めとかやったなぁ……。
「どういう色が必要なんですか?」
「赤と緑、あとできれば白かなぁ……」
「白ですか……」
リディは考え込んでいる。白の塗料はなかなか手に入りにくい。この森で調達するなら湖にいる貝の殻を焼いて作る、いわゆる胡粉くらいだろうが、淡水棲の貝は基本的には石灰分が少ないので大量に集めないといけなさそうだ。
「白はこの森のものでは難しいでしょうね。原料がなかなか見つからないと思います」
もう一つ、石灰岩を使う方法もあるが、この森に石灰岩があるかどうかはバクチになるだろうな。遠くに見える山に行けばワンチャンあるかも知れないが、あそこまで行って空振りでしたはちょっと避けたい。
「白の方はカミロのところで聞いてみるよ」
「赤の方は根っこを材料にする植物を何回か見かけた記憶がありますから、それを使うのもいいかと。緑はいくらでもありますから、心配はいりません」
「そうだなぁ……」
今度は俺が考え込む番だった。うちから贈る品ということを考えると、なるべくこの森で調達したもので揃えたい。
赤と緑ならほぼ確実に手に入るということであれば、そこだけでもこの森のものにするのはアリか。
「納品はもう出来るんだっけか?」
「大丈夫ですよ。“普通の”の数は足りてますし、“高級なの”は無くてもいいって話はされてますしね」
俺がリケに確認をすると、そう答えが返ってきた。うちでほぼ唯一「仕事」と言っていいカミロの店への納品は安定して回せている。
そろそろ拡充を図るべきか、それとも事足れりと休日を増やしていくかもそろそろ思案のしどころかも知れない。
それはともかく、これで明日の予定は決まったな。
「じゃあ、早速明日にでも探しがてらお出かけするか」
俺がそう言うと、サーミャとアンネがソワソワしはじめた。サーミャはお出かけが好きだし、アンネは家族になってから初めての経験になる。期待の高さが覗えるというものだ。
お出かけというワードに反応したのだろう、クルルとルーシーも走り回っている。遠足前日テンションで寝られないということがないといいのだが。
「そうと決まれば明日に備えて早めに寝るか」
そう言って、俺は夕飯の残りを始末しにかかった。
翌朝、毎日の日課を一通り終えて、家族全員が家の庭に集まった。一番ウキウキしているのはクルルとルーシーだが、見たところ、アンネも負けず劣らずである。
以前には熊に出くわした(ルーシーがうちに来るきっかけになったアレだ)ので、皆護身用にと自分の武器を持ってきたが、アンネも両手剣を持って出ようとして止められていた。
俺の薄氷も大概ではあるが、森のあちこちを行くのにアレは流石に大きすぎる。
アンネは両手剣の代わりに柄をかなり短くした槍を持たされることになった。アンネは元々のリーチが長いから、多少短くしても大丈夫だろう。
採集したものはクルルに任せることにした。紐をつけた籠を体の両脇にぶら下げてご機嫌である。ルーシーがそれをみて羨ましそうにグルグルとクルルの周りを回っているが、お前はもっと体が大きくなってからな。
「それじゃ出発するか」
『おー!』
こうしてテンション高く、我が家一行は森へと進んでいった。