魔力炉と実験
指輪が硬くなっていることを確認できたので、昼飯の時間にする。まだ全員作業をしているので手早く済ませるが、やはり青い魔宝石の話は出る。
驚きに目を大きく開けながら、ディアナが言った。
「そんなものができるの!?」
「できると言うか、できてしまったと言うか……。生成されるのは確かだな」
「なんか騒いでるなと思ったら、それだったのか」
「ああ」
サーミャの言葉に俺は頷いた。アンネの目がキラリと光っているように見えるのがちょっと怖い。
「まぁ、どうやら不安定みたいで、すぐに消えて無くなってしまったけどな。魔力が結晶になっていたのが戻ったんだから、“空気に溶けた”のほうが正しいかもしれないけど」
俺の言葉でアンネがわかりやすいくらい肩を落とす。無からカネになるものを生み出せるなら、国家的にも助かることは多いだろう。まさに錬金術なのだし。
これ以上、話が深みにハマらないように、俺たちはそこらで話と昼飯を終え、後片付けをした。
鍛冶場に戻った俺は硬くなっている指輪を、板金の囲いに戻す。魔宝石(今のところはまだ“らしきもの”の範疇を出ていないが)を生成できるのだから、“魔力炉”とでも名付けようかな。簡単なものだから“簡易魔力炉”だ。
その簡易魔力炉に、魔力のこもった板金で蓋をする。この状態で蓋にした板金を叩き続ければ、魔力が指輪にもこもっていくはずだ。
直接込める時は感触で「これ以上無理だな」と言うポイントが掴めるが、今回は間接的も良いところなので、時々簡易魔力炉から取り出して確認する必要がある。
手に持った感触や、メギスチウムそのものの輝きは入れる前とさほど変わらない。だが、確実に魔力がこもっていて、キラキラしたそれが増えているのがわかる。
「うーん……」
ここまで硬いなら平気だろうか。俺は試すなら今か、と指輪を軽く鎚で叩いてみる。
柔らかいままなら軽くであっても、この一撃でなんらかの不具合が出てしまったことだろうが、指輪は「チリーン」と涼やかな風鈴のような音を立てたのみで、特に傷は入っていない。
よし、これならいけそうだな。俺は板金に魔力をこめるときの要領で、指輪を叩いてみた。
チリン、と指輪が答える。もう2~3度叩いてみて、鎚を置いて指輪の様子を確認する。
「ダメか……」
叩いたときの感触でなんとなく分かってはいたが、硬くなった状態で魔力をこめようとしても、抜けていってしまうようである。
硬くなったならもしかするかもと思っていたのだが、そんなうまい話はないってことだな。地道に作業をしていくしかない。
直接魔力をこめることができれば、魔宝石や妖精のリスクもないはずだから、いいと思ったんだけどなぁ。
俺はため息をつきながら、魔力が抜けてきていた板金に再び魔力をこめるために鎚を振るった。
やがて、その身に魔力を湛えた板金ができあがった。そいつを魔力炉の蓋にすると鎚を振るって魔力が指輪にうつるようにと板金を叩いていく。
まだまだ実験しておきたいことは多い。普通に考えれば魔力が高濃度の状態を維持し続けたほうがよさそうだ。
つまり、途中で蓋にしている板金を除けたりせずに、そのまま魔力がなくなるまで作業を続けたほうが効率はいいのだろう。冷蔵庫の扉をしょっちゅう開け閉めすると、冷えるものも冷えなくなってしまうのに感覚としては近い。
だが、それが本当にそうなのかは試してみないとわからない。
俺はまず板金を5回叩き、一度蓋を開けて放置してから、再度蓋をして板金を5回叩いた。
確認すると、指輪には更に魔力がこもっている。まだまだ上限は先っぽいな。なお、5回程度では魔宝石もできないし、妖精が訪れることもないようだ。
魔宝石のほうはもしかするとごくごく微小な物ができていたかも知れないが。
続いて、蓋をしたまま連続して板金を10回叩く。これでさっきよりも魔力がこもっている量が多ければ、蓋をしたまま作業を続行したほうが効率が良いことになる。
俺はそっと蓋を開け、中の指輪を取り出す。10回くらいでも目に見える大きさの魔宝石は生成されていなかった。
指輪をためつすがめつ眺めて、魔力の量を確認する。
「思ったとおりか」
ほんの僅かではあるが、確実にこちらのほうが魔力が増えている。と、なればだ。
「ギリギリいっぱいまで蓋を開けずにやるか」
魔宝石と妖精は避けられるなら避けたいところだったが、仕方ない。どちらも害にはならなさそうではあるし、目をつぶって作業に集中するとしよう。
俺は指輪と蓋を戻すと、鎚を手に取り作業に戻った。