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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第9章 伯爵閣下の結婚指輪編
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魔宝石

 熱も何もないところへ突如現れた小さなそれを、俺はそっと指でつまみ上げた。

 火床の光を透かして、ほんのり紫色にも見えるそれの内部は、ほんのわずか揺らめいているようにも見える。


「これは……」


 俺はこの感じに見覚えがあった。魔族のニルダが報酬を支払ってくれた時のことだ。

 あの時は赤い色をしていたが、あれも確か内部が揺らめいていた。今回のは青い色なのが違うが、それ以外はほとんど同じと言っていい。

 と言うことはつまりだ。


「魔力の結晶……か?」


 ニルダがくれたのは“澱んだ”魔力が凝固したものだった。これはおそらく純粋な魔力の結晶ということになるのだろう。多分。

 素人が考えていても埒が明かないので、俺はリディを手招きした。このところ専門家として頼りっぱなしだな。

 パタパタとリディとリケがやってきた。


「なんでしょう?」

「これなんだが」


 摘んでいた魔力の結晶を手のひらの上に載せ、リディに見せる。リディの目が見開かれた。


「もしかして、これができたんですか?」

「ああ。前にニルダから貰ったのと似てるんだが、本当にそうなのかと思ってな」

「失礼します」


 リディは俺の手のひらから魔力の結晶をつまみ上げると、光にかざした。

 下からはリケが「ほわぁ」とか言いながら見上げていて、見た目には完全に子供が宝石を見せてもらっているかのようだ。


 その様子を横から見ていても、やはり光が結晶の中で揺らいでいるように見えるのだが、小さすぎてそれが魔宝石と同じ現象なのか、火床の炎が揺らめいているからなのかは判別が難しい。

 あれば虫眼鏡のようなもので拡大すればいいんだろうが、うちにはない。

 この世界にも凸レンズ自体はあるのだ。水晶などの宝石や、ガラスを手間をかけて磨いたものが。

 凹レンズはこの世界ではまだ出回ってはいないようだ。なので近視用の眼鏡はない(実に残念なことである)し、望遠鏡もまだない。

 何かの拍子に凹レンズに気がついたものはいるだろうとは思うが、それを実用化に持っていくところまでは、まだできていないみたいである。


「紛れもなく魔力が固まったものですね。分類的にはこれも魔宝石と言っていいと思います」

「やっぱりか」

「ええ。ただ……」


 リディが眉をひそめた。魔宝石に何かが起きかけているのだろうか。

 手にした魔宝石をリディが俺の手のひらに戻す。すると、魔宝石はサラサラと崩れて消えてしまった。


「あっ」

「赤い魔宝石と違って、こちらはしばらくすると魔力に戻ってしまうようですね」

「金槌一本で丸儲け、とはいかないか。ままならんなぁ」

「そうですね」

「ダメですよ親方、そんな楽しちゃあ」


 リディとリケがクスリと笑う。俺もこれで儲けようとは微塵も思っていないので、笑い返した。


「でも、何かしらの条件が整えば、あるいは赤い魔宝石のように固定されるかも知れないですね」

「その条件を探すのも難しそうだな」

「少なくとも私はこんな方法で青い魔宝石が出来る、という話は聞いたことがないので……」

「ドワーフにもそんな言い伝えはないですねぇ」

「うーむ……」


 おそらく今までに同じものを生成したことがある人間――かドワーフか、あるいは他の種族かも知れないが――はいたことだろう。

 それでも、できてそんなに経たないうちに消えてしまうのでは記録のしようがないから、全く残ってないんだろうな。

 すぐに消えてしまうものでは、持ち運ぶこともできないわけだし。


「まぁ、条件は追々、手が空いたときにでも探すとしよう」

「そうですね」


 リディが若干名残惜しそうに頷いた。俺はそれを見て、元の作業に戻ろうとする。

 いや待てよ。その時、俺には閃くものがあった。


「赤いほうの魔宝石は魔力が取り出せないんだっけか」

「はい。あれは完全に固まってしまってますから」


 再びリディが頷いた。あれは淀んだ魔力が固まってしまったものなので、漏れ出したりしない代わりに、取り出すこともできない。崩れることもないので、その希少性とも合わせて、綺麗な宝石としての価値がある。


「じゃあ、青いほうで、崩れてしまうやつだとできる……?」

「……可能性はありますね」


 すぐに崩れてしまうものとは言っても、それが出来るのであれば、最初は家の中限定で魔力をより多く使った作業を、崩れる速度などを調整できれば家の外でも、魔力を取り出しての作業や魔法の行使が可能になるのではなかろうか。


「試してみる価値は……」

「ありますよ!」


 ガッシと俺の手を掴み、リディは食い気味に答えた。ここまでテンションが高いのはエルフの里の宝剣を修理したとき以来かも知れない。


「あ、す、すみません」

「いやいや。もしこれがうまく行けば色々と捗るかも知れないんだから、興奮するのもわかるよ。と、その前に……」


 俺は、放置されたままになっていたメギスチウムの指輪を手に取った。

 左手で摘みながら、右手の指先で弾くと綺麗な金属音が響いて、もうタガネでもおいそれと加工できない硬さであることを示した。

 俺はほうっとため息をつく。上手くいってよかった。確信はあれど、試してみるまではわからんからな……。


「こっちも成功だな」


 流石親方、と拍手をするリケ。その拍手はリディから皆へと伝わり、俺は気恥ずかしさと小さな誇りを感じながら、ペコリと頭を下げた。

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