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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第9章 伯爵閣下の結婚指輪編
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文様

 昼食を終えて再び作業にとりかかるが、俺はまだメギスチウムに魔力を移していく作業だ。

 元々叩く作業にはチートが効いていたが、コツが掴めてきたのか、ちょっとだけスムーズになってきているように思える。

 魔力が抜けきった鋼の板金にはキラキラしたもの――魔力が全く含まれておらず、なんだか物悲しい。色がくすんでいるようにすら感じる。

 まぁ、そんなことはまったくないんだが。


 時間をかけて2枚分ほどの魔力をメギスチウムに移し終わった。実験のときの感じで言えば、結構硬くなっているはずである。

 シート状に平べったくなったメギスチウムを手に取り、指で捏ねてみると重い手応えが返ってきた。硬くなっていて練りづらい。

 少しだけ苦労して1つの塊にしてやる。グッと力を入れて少し形が変わるかなといった具合だ。ミルクキャラメルと同じくらいだろうか。この世界にミルクキャラメルはまだないので確かめようがないが。


 これ以上硬くしてしまうと加工に苦労してしまうな。これくらいの間に形だけは作ってしまうか。

 指輪の大きさを写し取った紙を家の方から取ってくる。これに形を合わせるわけだが……。


「もう少し、柔らかいうちにしとけば良かったな」


 思ったより硬くなっていて、丸めてから円柱状にし、真ん中に穴を作るまででも結構な時間がかかってしまった。

 スムーズに行くので、調子に乗って魔力をこめすぎた。奥さんのを作るときは板金1枚ちょいくらいで抑えよう……。


 前の世界で、焼くと銀になる銀粘土というものでちょっとした指輪を作ったことがあるが、ちょうどそれの焼く前のような感じのものが出来上がった。この状態ではまだ未完成と言うのも同じだな。

 そうしてできた未完成の指輪を眺めていて、ふと気がつく。


「あー、そう言えば……。ディアナ! アンネ!」


 俺は直ぐ側でロングソードのバリを取る作業をしていたディアナとアンネを呼んだ。2人とも鎚を持つ姿が少し様になってきている。


「なぁに?」


 ディアナとアンネが鎚を置いて俺のところまでやってきた。


「すまんな、作業中に。いやな、結婚指輪の装飾ってなにか決まり事があるのかを知りたくて。特に貴族のものだろう? しきたりを守ってなくて普段つけられないなんてことになったら、目も当てられないからな」


 銀粘土も焼く前に大まかなデザインは作ってしまう。焼いて銀になったあとにするよりも加工しやすいからだ。

 メギスチウムもそれと同じで、とんでもない硬度を発揮してしまう前に加工はしてしまわないと面倒だ。


「うーん、私は聞いたことないわね。アンネはどう?」


 おとがいに手を当ててディアナが答えた。王国の伯爵家あたりでは特にない……と思いたいが、ディアナなので単にそのあたりのことは聞いてなかったと言う可能性もある。自分からアンネにも聞いてくれて内心ホッとした。

 ここらを指摘すると肩ではなく最悪腹に良いパンチが飛び込んで来そうなので、おくびにも出さないが。


「帝国でも聞いたことないわね。あんまり派手すぎるとよろしくない、みたいなのはあるけど、あれもそんな豪奢にしてしまうと普段着けづらいってだけだしね」

『なるほど』


 ほほう、と俺とディアナの2人で頷く。特にデザインに制約はないのか。

 とは言っても、死を連想させるような不吉なモチーフとかは流石に駄目なんだろうが。

 普段着けづらいデザインもダメ、となるとこうアーマーリング的なものはダメだろうな。

 メギスチウムの硬度を活かすにはある意味ベストな選択ではあるんだろうし、ファッションとしてはダメではないんだろうが、結婚指輪に向いてるかと言うと真逆すぎる。

 俺はイケメンと美少女の夫婦が普段からアーマーリングを左手薬指にしている様を思い浮かべてしまい、思わず苦笑が漏れる。

 想像の中では服装もあって若干似合ってなくはないが、元地球人の俺から見ると、ちょっと中二がすぎる気がするなぁ。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。俺の下らん妄想があんまり酷かったもんでな」

「ええー、どんなのよ?」


 ディアナの追求に俺は正直に答えた。


「篭手の指部分だけの指輪だと、メギスチウムの硬度を活かせるなって」

「それは流石に……」

「だろ?」


 当然という顔をしながらも、俺は内心でホッと胸をなでおろす。「いいわね、それ! やってみましょうよ!」とか言われたら、どうしようかと思った。

 アンネも首を横に振っているし、俺の下らない妄想はそのまま下らないものとして幕を下ろした。


「んー、じゃあ無地か、悪いことから守ってくれるような文様がいいのか」

「そうねぇ」

「ふむ。ああ、そうそう、北方の文様でも大丈夫だよな?」

「勿論」

「わかった。2人ともありがとう」

『どういたしまして』


 少しおどけた感じで、お嬢様組は優雅に礼をして作業に戻った。さっきの仕草とやろうとしている作業のギャップが少し面白い。


 北方の文様でも問題ない、と聞いた俺の脳裏に幾つかの吉祥文様が思い浮かぶ。

 そのうちのどれか、あるいは複数を組み合わせて、おかしくない程度に仕上げよう。そう決めた俺は、紋様を刻むための小さなタガネを取りに、腰を上げた。

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