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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第9章 伯爵閣下の結婚指輪編
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形作るもの

 翌朝、クルルとルーシーと朝の散歩を兼ねた水汲みに行った後、みんなが朝の準備をするのを横目に、朝飯の準備をしながら考える。それは、


 “なぜ、あの方法がチートでは分からなかったのか?”


 ということだ。板金に鎚を振るうとき、どこをどう叩けばいいかは“わかる”。

 それはチートによるものであるが、メギスチウムに魔力をどう込めればいいか、については分からなかったのだ。

 もしかするとチートが消えてしまったのかとも考えたが、朝飯を準備する前にそれを思いついたので、少しだけ鍛冶場に入ってみたが、やはり板金を見てどう加工すれば良さそうかはひらめくことができた。

 つまり、チートが消えてしまったのではない、ということだ。


 だとすると他の要因、例えば直接加工するものでないと全てのチートが働かないか、もしくは生産のチートのほうになってしまうか。

 生産の方はそこらの職人には負けない、といったレベルでしかない。料理でサンドロのおやっさんと勝負したら、きっと俺はボロ負けするだろう。

 勝負の後、「一から叩き込んでやる!」と怒鳴るおやっさんの姿が思い浮かぶようである。

 ともあれ、そっちになってしまうのであれば、メギスチウムのような場合に思いつかないのも仕方ないのかも知れない。

 一度何かで適用条件を調べる時間を取ったほうがいいかも知れないな。チートの話は家族にも内緒なので、他の作業と並行してにはなるが。


 朝飯を終えて、神棚への拝礼を済ませたら、炉と火床に火を入れてエイゾウ工房の操業を開始した。

 今日はリケにはナイフとロングソードの生産を頼んである。他の皆はロングソードの“素”づくりだ。型を作る組と、鉄を流す組に分かれての作業になる。


 俺はもちろんメギスチウムの加工だ。まず最初に板金を取ってきて、金床の上で魔力をこめていく。

 キラキラした何かがドンドンと板金にこめられていく。こうするためにはどうしたらいいのかが“分かる”。ちゃんとチートが働いている証拠だ。やはり根本からチートが失われたわけではないらしい。

 こうしてハッキリと確認できると安心できるな。俺は一旦不安と疑問を頭の中から追いやって、板金に魔力を込める作業に没頭した。


 5枚ほどの板金に魔力をこめた。心なしこもっている量が少し多いような気がするが、多くて困ることもなかろう。

 なので、今のところは気にしないことにして、昨日までにさんざんいじりたおした、ちょっとだけ硬いメギスチウムを、3分の2弱くらいに切り分けたまだ柔らかいのと

 混ぜ合わせる。

 魔力がこもっているとは言え同じ素材だし、叩くことで魔力を板金から移すことが出来るのであれば、メギスチウム同士でもできるだろうと、鎚で叩いて薄くなったら折り返すことを繰り返すと、やがて全体に少しだけ魔力の入ったメギスチウムの塊ができた。


 このとき、どこを叩けばいいのかが何となく分かったので、やはり直接素材を加工する場合にしか有効でない可能性が高い。

 そうでない素材がどれくらいあるのかは疑問だが、異世界だからなぁ……。

 例えばオリハルコンやアダマンタイト、あるいはヒヒイロカネの加工も、メギスチウムと同じように何かを介してでないとダメだった場合は、それだけでも相当に骨が折れる作業になる。

 メギスチウムの場合は鋼の板金でも良かったが、オリハルコンはミスリルでないといけない、とかだったらまず魔力を移せる素材の選定からになってしまうし。

 今はそうではないことを祈るのみだが、どこかでカミロに入手を依頼しておくのがいいんだろうな……。幸いにして金はあるし。

 とりあえず今はメギスチウムだ。


「さーて、ここからが本番だぞ」


 俺は軽く頬を張って気持ちを切り替えると、メギスチウムの上に板金を置いて鎚を振り下ろす。

 ガキンという音と手応え、そして鋼から魔力が抜けていくのが視える。これを幾度も繰り返し、まずは加工するのに困らない程度の硬さを目指す。


 シート状にまで広がってしまったメギスチウムをまとめて再び叩いていると、リケがナイフを打っているのだろう、リズミカルな鎚の音が俺の鎚の音に交じる。

 俺とリケの無骨な音の合奏は、昼飯になるまで、ずっと続くのだった。

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