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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第9章 伯爵閣下の結婚指輪編
374/982

大きさ

 俺が「帰ろうぜ」と宣言した直後、リケから言葉が飛んでくる。


「親方」

「な、なんだ?」


 リケにしては珍しく割と冷たい感じの声だったので、俺は背中に冷たいものを感じながら聞いた。


「大事なことを聞き忘れてないですか」

「大事な……?」


 はて、なんだろう。大体のことは聞き終わったつもりだったが。俺が首を捻っていると、リケがため息をついた。


「指の太さが分からないと作れないですよ。マリウスさんのは今測ればいいからともかく、奥様の分もあるんでしょう?」

「あっ」


 結婚の話が衝撃的すぎてすっかり忘れていた。メギスチウムがとんでもなく硬いなら、大きめに作っておいて、後から調整するというのも難しかろう。

 後から調整できるなら、継ぎ目なんかが全く分からないようにする自信があるのだが。

 俺はマリウスの方を見た。ニヤニヤ笑っている。


「いつ言い出すかと思っていたが、優秀な弟子がいて良かったな、エイゾウ」

「くっ」


 すっかり頭から抜け落ちていたのは事実なので、何も言い返せない。

 俺は色々と内心を抑えつつ、マリウスに尋ねる。


「で、大きさは?」

「安心しろ、ちゃんと持ってきてある」


 ゴソゴソと懐から取り出したのは2つの指輪。大きさが違うから、大きい方がマリウスのか。

 銀色でシンプルな形状をしている。純銀かな。青く光ってないからミスリルってことは無さそうだが。

 物凄く小さな赤い宝石がはまっているが、彫刻は見当たらない。前の世界の知識があると、これ自体が結婚指輪のようにも見える。


「こんな短期間では、ほとんど形式上のものでしかないが、必要ではあるからな……。入れてある宝石は最低限格好のつくものだけど、正真正銘、俺とジュリーの指輪だよ」

「じゃあこれは婚約指輪か」


 マリウスは頷く。とりあえずこれで大きさは分かるな。


「今朝までは指にしていたんだ。エイゾウが来るときにカミロから一旦は頼んでおいてもらおうと思って、ジュリーから預かったときに一緒に外したんだよ」

「なるほどね。じゃあ、大きさを写すか」


 カミロ(彼もマリウスに負けず劣らずニヤニヤしていた)に頼んで、紙と筆記具を借りて2つの指輪の大きさを写しとった。


「これでとりあえずは大丈夫かな。良かったな、マリウス」

「何がだ?」

「今日中に帰るんだろ? すぐにまたお揃いの指輪をはめられるじゃないか」


 俺はそう言ってニヤッと笑う。せめてもの逆襲のつもりだったのだが、マリウスは顔色一つ変えずに、


「そうだな。あまり長いこと預かられても困っていた。形式上のものではあるんだが、ジュリーが気に入っててなぁ」


 と返してきた。俺は両手を上に挙げた。口から砂糖が溢れ出ている気もする。


「分かった。降参だ」


 俺の言葉で部屋に笑い声が響く。これでもう忘れたものはない。帰るとしよう。


 他に仕事がある、と言うカミロとは商談室で別れ、マリウスを伴って裏へクルルとルーシーを迎えに行き、荷車のところへ向かう。

 荷車には炭や鉄石、食糧の他に、見慣れない大きめの、金属製の箱が積まれていた。鎖でがんじがらめにされている。錠前もついていて、これも金属製だった。


「これか?」

「ああ」

「えらく厳重だな」

「そりゃ中身は貴重かつ高価だからな」

「値段は聞かないほうが良さそうだ」


 俺は苦笑し、マリウスは「違いない」と笑いながら鍵を渡してくれた。


「それじゃ、出来ていようがいまいが、2週間後に納品に来るよ」

「分かった。俺もそのときに来させてもらう」


 荷車に乗り込んだ俺達は、見送ってくれるマリウスと丁稚さんに手を振って、カミロの店を離れた。


 さて、友人がその伴侶と人生を共にするための大事な品だ。これは気合を入れてかからないといけないな。

 そんな俺の決意が伝わったのか、ただの気のせいか、クルルの歩調がいつもよりも力強いように、俺には感じられるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 2巻おめでとうございます。 穏やかな気分になれる作品なので、長く続いてほしいです。
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