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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第1章 異世界での暮らし方編
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部屋の扉

 街を出る時に、塀のところの衛兵さんを見たが、今日もマリウス氏はいなかった。来たときもいなかったので、次来るときにいなかったらちょっと聞いてみよう。彼がうちのナイフやロングソードを買ってから、結構な期間が空いている。なにか不具合があればカミロの店なりに持ち込むとは思うが、なるべくなら状況を聞いておきたい。


 荷車に塩、ワインの樽、鉄石、木炭を積んで街道を行く。後もう少しで森に入る辺り、というところで、サーミャが足を止めた。

「どうした?」

「血の匂いがする」

 サーミャが弓の準備をする。場に緊張が走った。

「賊か?」

「わかんない。音は聞こえてこないから、襲われたとしてももういないとは思うけど、用心しろよ」

 丸っこい耳をピクピク動かしながら、サーミャが言う。リケと荷車を残すわけにもいかないので、ジリジリと進んでいくことにする。

 やがて、現場であった()()()()場所が見えた。屍体や残留品などは見当たらないが、辺り一面に血が飛び散っていて、凄惨さだけがあるのが、かえって不気味だ。複数の血の跡が森の方に続いている。

「こりゃあ狼か?」

「たぶんそうだと思うけど、賊がそう見せかけるためにやってるかも知れない。狼はめったに森からは出ないからな」

 俺が尋ねるとサーミャがそう返してくる。なるほどな。狼に見せかけておけば追手がかかることも少ないか。

「サーミャは用心してくれ。俺とリケはちょっと急ぐことにしよう」

「わかった」

「わかりました」

 結局のところ、家に帰り着くまでは特に何事も無かったし、急いだおかげでいつもより早いくらいだったのだが、ドッと疲れがきた。我が家ってありがたいなぁ……。

 それと同時に何もなかったとは言え、今回の件は今までたまたま何事もなかっただけで、決して安全な場所で暮らしているわけではない、ということを再認識させられた。街道を街の衛兵が回っていて、治安はかなりいい方とは言え、それは賊なり狼なりに襲われない、ということではないのだ。これからも街へ行くときはなるべく総出のほうが良いな……。そんなことを考えながら、荷物をおろして、今日の“仕事”は終わりだ。


「ということで、明日からは扉なんかを作る。俺が蝶番を作るから、二人は扉本体を頼むな」

「わかりました」

「わかった」

 夕食時、明日からの作業について軽く打ち合わせる。まずは扉、その後ベッドだ。これらが出来れば、3人がそれぞれの寝室を持てる。そこまで話したところで、

「あー!」

 俺は気がついて叫んでしまった。

「ど、どうしたんだよ、エイゾウ」

 サーミャがびっくりしている。リケも負けず劣らずだ。

「いや、そういえば客間作ろうと思って忘れてたんだった……」

 すっかり忘れていた。今のままだと客間がない。うーんと考え込んでいると、

「書斎を改造しては?」

 そうリケが提案してきた。

「親方の……今は私とサーミャが使ってしまっていますが、あの寝室はまだ結構余裕がありますし、あそこの椅子やテーブルなんかを書斎のものに入れ替えて、棚を一つ持ってくるくらいなら、大丈夫だと思いますよ。そうすれば書斎にベッドも入りますし」

「なるほど……」

 確かにそれで行けそうな気がする。ベッドの寝具が一つ足りないが、どうせすぐには客も来ないだろう。こないだヘレンが来たけど。最悪、俺の部屋の寝具を引っ剥がして持っていけばいい。

「じゃあ、そうするか。ベッドを一つ余計に作らないとな」

「最初は私たちのベッドを作って慣れてから、お客様用のを作ったほうがいいでしょうね」

「そうだな」

 これで明日からの方針は決まった。金には全くならないのだけど、たまにはこういう時があってもいい。


 翌朝、俺は作業場に入って、板金(新しく作ったほうだ)を熱して、薄く延ばす。適当な大きさに切り分けて、それぞれの小札(こざね)を凸を2つ組み合わせた形に切り離し、出っ張った部分を丸めて穴が空いた筒状にする。冷えるのを待ってから、また組み合わせて、端を熱したピンを通し、端を潰して離れないようにしたら蝶番は完成だ。また冷めるのを待ってパタパタと動かす。特に問題ないので量産する。壊れたときや、今後部屋を増やすときのことを考えて、そこそこの数を作った。


 作業場から外に出ると、リケとサーミャが扉と格闘している。でももう半分以上は出来てるな。

「蝶番は出来たから、俺も手伝うぞ」

「あ、親方。お願いします」

 今二人が作っているのはそのまま二人で作ってもらうことにして、俺は新たにもう一つを作ることにする。切り出してある材木を四角に組み合わせて外枠を作ったら、そこに合わせて横板を張り、斜めの梁と中央に取っ手をつける。鍵がかかるようにはしない(閂はつけるが)ので、取っ手はとりあえず押し引きが出来ればいい。

 俺が格闘している間に、リケとサーミャは扉を完成させていた。

「作業場に蝶番置いてあるから、二人で取り付けておいで」

「おう、わかった」

 サーミャが笑顔で言う。彼女は狩りも嫌いではないようだが、こうやって手伝いで家のものを作ったりするのが、最近は気に入っているようで、肉が十分にあれば何かと手伝いたがる。このまま行けば、一人でもできるし、鍛冶でも大工でも役に立っていってくれるだろう。肉は大物が1頭獲れれば、保存が必要なくらいだし、積極的に手伝いができるようにしていってもいいな。例えばヘレンの時みたいに、俺が普通のを作れない時にリケを手伝ってもらうとかだ。


 夕方ごろまでかかったが、扉が出来たので俺も取り付けに向かう。部屋の前に行くと、リケとサーミャがパタンパタン扉を開け閉めしていた。

「どうだ?」

「ええ、問題ありませんね。こんなに軽く開け閉めできるものなんですねぇ」

「俺謹製の蝶番だからな」

「冗談抜きにそれはあると思いますよ」

 そんな会話を交わしながら、俺は扉の取り付けにかかる。そろそろ釘も作らないとな……。

 こうして2つの部屋に扉が取り付けられ、いよいよ家の体裁が整ってきたのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告ですね。ctrl+fでどうぞ。 >板金|(新しく作ったほうだ)を熱して、 この場合、ルビなのか普通の括弧として扱うのかが分からなかったのでこちらに送りました。括弧の場合縦線…
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