表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第9章 伯爵閣下の結婚指輪編
360/980

狩り

 さすがは森で暮らす獣人だというべきだろうか、サーミャはほとんど音をさせずに歩いていく。その音も、俺は発生源が何かを知っているから感知できるが、そうでなければ風か何かに紛れてほとんど聞こえないかも知れないくらいのものだ。


 俺はその邪魔にならないように必死についていこうとするものの、どうしても大きめの音を立ててしまう。鹿の毛皮を靴裏に貼ったブーツでも作ってくるべきだったかな。普段履きしてると盗賊にでもなった気分になることうけあいだろうが。


 今も落ちている枝を踏んで音を立ててしまい、思わずサーミャの様子を窺ったが、特に気にしている様子はない。まだその音を気にしないといけないほど近くにはいないと言うことだろう。

 まぁ、だからと言って、耳のいい獣たちにこちらの音を聞かせて回る必要もない。遭遇する確率は少しでもあげたいものだ。


 サーミャの後をなるべく音を立てないように、かつ、引き離されないよう、そしてコケたりしないように必死についていってしばらく、獲物に出会うことはなかったが、泉に出た。


 この森には湖がある。近くの山からの伏流水が湧いているようなのだが、そのポイントが少しズレてここで湧き、泉になったのだろう。

 泉からそう離れていないところで、サーミャが身を低くした。俺も慌てて同じように屈む。

 しばらくじっとあたりの様子を窺っていたサーミャは、次に這いつくばるようにして地面をチェックしている。


「足跡がある。古いのとそうでないのが混じってるから、またここに来ると思う。ここで待とうぜ」

「ああ」


 小声で言うサーミャに、俺も小声で返した。獲物が水を飲みに来たところを仕留めるつもりのようだ。

 確か虎も同じような行動するんじゃなかったかな、といったようなことが頭をよぎったが、口にはしないでおいた。

 しばらく鼻をヒクヒクさせていたサーミャがぽつりと呟く。


「……それにしても」

「うん?」

「増えたよなぁ」

「ああ……」


 サーミャが呟いたのは家族の話だ。最初はサーミャだけだった。ほどなくしてリケが、そしてディアナ、リディとトントン拍子に増え、ヘレンとアンネも加わった。さらに言うなら、クルルとルーシーもだ。

 さすがに小家族とも言えない人数になってきている。そこが面白くないのかも知れない。

 俺はなんとなくで泉に向けていた視線をサーミャに向けた。


「嫌か?」

「ううん、別に。みんなと話したりするの、楽しいし」

「そうか」


 サーミャは泉のほとりへと視線を移した。俺も再び視線を戻す。


「アタシさぁ、もうちょっとのんびり暮らすのかと思ってたよ」

「それは俺が一番思ってるよ」

「本当に?」

「ああ」


 2人とも視線を泉に貼り付けたまま、ごく小さな声で話す。


「俺も少なくとも数年は3人で……まぁ、1年か2年でリケが出てっちゃったら、その後しばらくは2人で過ごすんだろうなと思ってたさ」


 いざ蓋を開ければ、全くそんなことはなかったわけだが。この辺り“ウォッチドッグ”の関与があるのかないのか、あるのならどういうつもりなのか問い質したいところだが、その機会はきっとあるまい。


「さっき言ったけどさ」

「うん」

「アタシも別に不満があるわけじゃないんだ」

「うん」

「ただ……」


 そこで、そっと俺の肩のあたりに暖かい何かが触れるのを感じた。見るとサーミャの頭があった。顔を伏せていて表情は分からない。

 次にどんな言葉が続くのだろうか、ドキドキして俺は生唾を飲み込む。サーミャが顔を上げ、俺と目が合った。心なしか瞳が潤んでいるようにも見える。

 俺の心臓はいよいよ早鐘を打ち始めた。ええい、落ち着け。


 その時、サーミャの頭が横を向いた。泉の方だ。鼻をヒクヒクさせている。

 慌てて同じ方を見ると、なかなかに大きな樹鹿が泉の水を飲んでいた。周囲にはもう3頭ほど、水を飲んでいるのよりも小さいのがいる。

 水を飲んでいるのがオスだとしたら、小さいのはメスだろうか。


 俺とサーミャは再び目線を合わせると、互いにそっと頷き、置いてあった弓を手に取った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=509229605&sツギクルバナー
― 新着の感想 ―
[一言] 第2巻発売日決定おめでとうございます! 書籍版も楽しみにしていますね!!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ