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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第1章 異世界での暮らし方編
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戻る”いつも”

(2019/01/17)ヘレンの支払いのくだりを修正しています。大筋には影響ありません。

「耐久性は一応試したが、もし何かあったら直すから、カミロの店かここに来てくれ。できれば実戦で使う前にな」

 なんとかヘレンのベアハッグから解放された俺は、作り手の責任として告げる。何かあったら直しはするが、戦場でそれが起きたら直しに来るも何もない。相手の顔がちゃんと分かって、要望に応えて作ったものだから、普段の数打ちよりもそのあたりがすごく気になった。

「わかった。訓練はしょっちゅうやってるから、その時に気になったらまた来る」

「ああ。それで代金だがな」

「いくらだい?」

「お前の払いたい値段でいいぞ」

「え、いいのか? アタイは相場とか知らないぞ?」

「かまわない。特注はそいつの納得する値段を貰うことにしてんだ」

 理屈だけで言えば、一般モデルであれば2日で結構な数を作れるのだから、最低それだけは貰うべきなのだろう。それにこれ幸いと銀貨1枚渡して終わり、というやつもいるかも知れない。

 だが、ここまで来てでも欲しい、と思うようなやつだし、変な値付けはしないだろう。俺の手間賃以外はショートソード2本分の鉄石と木炭の分稼げれば、赤字ではあるが作れなくなるということもない。

「うーん……」

 ヘレンは相当に悩んでいる。相場を知らないって言ってたからな。俺としては金貨1枚も貰えれば御の字なんだが。

「じゃあ、これだけで」

 ヘレンは雑嚢から袋を取り出し、袋から金貨2枚と銀貨数枚を取り出した。

「十分だよ」

「出したあとで言うのもなんだけど、それでいいのか? 今使ってるのよりちょっと高めにしたんだけど」

 今使ってるやつも大枚(はた)いたんだな。出来から言ってもおかしくはなさそうだ。

「別に問題ないよ。元のやつもいい出来してるから、俺のもそれでいい。ちょっと多いかも知れないって思ってるくらいだ」

「お、おう……」

 こうして代金を払い終わったヘレンは手をブンブン振り、「ありがとなー!」などと叫びながら、森の中へ消えていく。あの様子なら帰り道に大黒熊に遭ったところで、喜んで試し切りの相手にしそうだ。ヘレンが見えなくなると、俺たちは誰からともなく家の中に戻っていった。


「しかし、すごい力だったなぁ……」

 俺はそう呟いた。それこそ大黒熊くらいあるんじゃないのか、あの膂力。

「アタシらが全力出しても、エイゾウから引き剥がすのに苦労したぞ」

「声も大きかったですねぇ」

 サーミャもリケもそれぞれに強い印象を持ったようだ。まぁアレだけの人物はそうそういない。ドワーフと獣人両方に全力を出させる人間が、うじゃうじゃいたらちょっと困る。

「とりあえず、今日はショートソードとロングソード作って、明日納品しに街に行くぞ」

「おう」

「わかりました、親方」


 そして、ショートソードとロングソードを作り始める。たった2日違うことをしていただけなのに、いつもが戻ってきた感覚がする。いつもどおりに準備をして、いつもどおりに手伝ってもらい、いつもどおりに作る。俺がここで暮らしはじめてからそんなに経ってはないが、いつの間にかこの光景はいつもになってたんだな。ちょっとぐっと来たが、なんとかサーミャにもバレずに済んだ。


 その日の夕食の時、

「金銭的には余裕ができたし、来週はちょっと鍛冶仕事をやめといて、家のことをするか。部屋の扉やベッドもまだ全然手を付けられてないからな」

 俺はそう提案した。

「そうですねぇ。作った数で言えば今回も十分でしょうし、1週間くらいなら大丈夫だと思いますよ」

「おっ、じゃあアタシも手伝う!肉はまだまだあるんだろ?」

 リケとサーミャも異論はないようだ。

「じゃあ、そうするか。次の次に行くときまでにベッドの毛布をカミロに調達しておいてもらおう」


 翌日、俺たちは作った商品を荷車に載せて街へ向かっていた。今回はいつものにプラスして、今まで在庫にしてあった鎌も半分ほど積んである。行きは大した重さでもないし、移動速度は徒歩のときとそんなに変わらない。森でも街道でも特に何かに出くわすこともなく(かわいいウサちゃんなんかを見かけることはあったが)、街についた。早速カミロの店に向かい、カミロを呼び出してもらう。


「よう」

 カミロはいつもどおりの様子で俺たちを出迎えてくれた。

「よう、調子はどうだい」

「まぁ、ぼちぼちってところだな。売れなくて困ることはないが、売れすぎて困るものもないよ」

「そりゃあ、ぼちぼちだ」

「だろ?」

「ああ」

 俺とカミロは笑い合って、俺は納品の報告をする。

「倉庫のところに荷車を置いてある。今回はいつものと、鎌をいくつか持ってきた。昔売ろうと思ったんだが、俺のところでは売れなかったんでな。いらなかったら引き取ってもらわなくても大丈夫だ」

「いや、あっても困らんから引き取るよ。一緒に計算させておこう。おい」

 カミロは部下を呼ぶと、引き取りに向かわせた。

「それと、来週は卸しに来られないが、問題ないか?」

「ああ、問題ないが……。何かあったのか?」

 カミロがすごく心配そうな顔をする。俺はなんかやらかして黒の森なんてところに住んでいる、()()()()だからな。いつ何が起きてここに来なくなるかも知れない、という不安はあるのだろう。

「いや、特に何かあったわけじゃない。来週は家のことをやろうと思ってな。鍛冶の方は休みだ」

「なるほど。じゃあ次は再来週だな」

「ああ。それとできるなら、その時までにベッドに敷く毛布なんかを2セット揃えておいてくれないか」

「2セットだな? わかった。探しとくよ」


 そのあと、ヘレンの話をしたり、塩やワインに野菜を買い込んだりする。代金は売上から天引きだ。さっきのも含めて、こうしたやり取り自体は前々からやっていたわけではなく、比較的最近始めたものだが、これもいつもになりつつある。こっちのいつもも長らく続けばいいな、そんなことを思いながら、俺たちは街を後にした。

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