できあがりとお礼
翌朝、二日酔いでダウンするものもなく、全員が元気に起きてきた。リケのペースに付き合うのがいたら、完全に潰れるのがいただろうが、その辺みんな弁えている。
「部屋の方はどうなんだ?」
「クルルの手伝いもあるし、順調よ」
「早けりゃ明明後日には終わるだろ」
俺の疑問にはディアナとサーミャが答えた。明明後日か。それなら俺たちも手伝いに入れそうだな。
朝飯が終わった後、今日も鍛冶仕事はしないが作業場の神棚に拝礼はする。
アンネも最初の頃こそ、若干の違和感もあったようだが、今では普通に一緒にやっている。
宗教的な意味合いはともかく、気持ちの切り替えとしても有効だしな。
「じゃあ、俺が部品を仕上げていくから、2人は組み立てていってくれ。アンネはリディに聞いたらいいから」
「わかりました」
「わかったわ」
木材の切り分けは終わっている。ノミでパパッとほぞを切ったら2人に渡す。受け取った2人はリディが部品を支えつつ、アンネが木槌で打ってはめ込むことにしたようだ。ちょくちょくリディが打つ箇所を指示し、ガツンと音を立ててアンネの木槌が部品を叩く。すると、部品はスムーズに組み合わさっていく。
次々と仕上げてすぐに渡して組み立ててもらう。程なくベッドの姿が見えてきた。今回のものには宮を作っていない。
「後は板を張るだけか」
「そうですね」
最後の仕上げは俺がやっても良かったのだが、折角だし使う本人に任せることにした。
「こう?」
「そうそう」
釘を板にあてがい、こっちに聞いてくるアンネに俺は頷いた。ちょくちょく鍛冶の仕事を手伝っていたからか、鎚を振るさまに危なっかしさがあまりない。
コンコンと音がして、板とその下の梁に釘が刺さっていく。そして、全ての板が収まるべきところに収まった。完成だ。
「うん、大丈夫だろ」
俺ができあがったベッドのあちこちを触って、できあがりを確認した。がっちりと組み上がっていて、この様子なら上で多少跳ねたりしたとしても、すぐに壊れると言うことはあるまい。
アンネがそれをするかは疑問だが。寝具もふかふかなものを用意はする(実際に用意するのはカミロである)とはいっても、スプリング入りとはいかないから多分ないだろう。……ないよな?
俺の言葉にリディとアンネは2人で喜んでいた。物ができた時って嬉しいよな。俺もそれを味わいたくて鍛冶屋なんて稼業を選んだようなものだし。
できあがったベッドは外からテラスを経由して部屋に運び込む。以前なら外で作った物は居間を経由する必要があったが、テラスを作ったことでそちら経由になったのだ。
衛生的にも若干気にはなっていたし、こっちの方が運ぶ距離も短くて済むので、テラスを作ったのは結果的には正解だったと言っていいだろう。
「この辺か?」
「もうちょっとそっちかな」
「こっちか」
「そうそう、そこ」
「よし」
こうしてベッドの据え付けも終わった。もう既に昼飯を食って結構経っている。今から部屋の方を手伝うにしても中途半端にしか手伝えないか。
それでも一応人手がいるか聞いてみたが、「明日からお願い」とディアナに言われてしまったので、俺たちの今日の仕事は終わりになった。あっちはこのベッド以上に急がなくてもいいからなぁ。
なので、客間の寝具とアンネの荷物を私室のほうに移す作業にした。俺が寝具で細々したものはアンネとリディに任せる。下着とかもあるからな……。
時間が空いてしまったので、その日の夕食は少しだけ手の込んだ物を用意した。皆喜んでくれていたので、用意した甲斐があったな。
その夕食の席で、俺は言った。
「そう言えば、ベッドが出来たし、部屋が出来たら皆には何かお礼と言うか、報酬を用意しなきゃな。なにか欲しいものはあるか? 別に金銭とかでもかまわんぞ」
「家族のものだし、別に報酬とかいいと思うけどね」
「うーん。そう言われると弱いんだが、それでもなぁ」
俺自身、家族だからとか友達だからとかで採算度外視の事を散々やってきているから、余り強くは言えないような気もしてくる。
だが、半分くらい自給自足みたいなこの森での暮らしを考えると、欲しいものが大してないと言うのも事実だろう。急に欲しいものをと言われても困るのも確かだ。
ちょっと思いつきが過ぎたかな。
「あ!」
俺が反省しつつ皆がうんうん唸っていると、サーミャが肉をくわえたままポンと手を打つ。
皆の目がそこに集まる。サーミャは照れたように肉を飲み込んでから言った。
「皆1人1人とエイゾウが2人で1日ずつ過ごすのはどうだ?」
「は?」
サーミャの言葉にキョトンとする俺をよそに、他の皆は「それは名案だ!」とばかりにワッと盛り上がった。