都から帰ろう
外街で様々な露店を冷やかす。参考になればと思って探してはみたが、武器や防具を扱う露店は見当たらなかった。探索者達がいるとは言っても、普段はそんなに売れていくものでもないのだろう。
その代わりと言っては何だが、日用品を扱う露店は見つかった。そこの店番をしていた、年の頃は15そこそこくらいに見える若いのに話しかける。
「ああ、じゃあ工房は別のところに?」
「そうそう、都から少し離れたところにあるもんで、ここに持ってきてるんですよ」
「都の工房から怒られたりしないんですか?」
「ここにある工房は大抵貴族から注文を受けてやってますからね。こういうのは別になにも言われませんよ。ここの軒先を貸して貰ってるんで、念のため一番近い工房に話は通してあるらしいですが」
「ここ」と言いながら若者は自分の背後を顎で指し示した。看板も何も出ていないが、何かの工房ではあるらしい。今も木槌で何かを叩く音が聞こえている。
この工房で作っているものは露店のものとは商品が競合しないし、露店を出して売るようなものでもないのだろう。それが何なのかまでは分からないが。
一方で念のためレベルとは言え、近い工房には話を通しておく程度の義理を通しておく必要はあるわけだ。場所を借りてる都合上、万が一にも貸主に迷惑がかかるような事があってはいけないからな。
逆に言えば、都でもこの程度のことを押さえておけば自由らしい。街の自由市のように完全に自由(あちらはそのために毎回出店料を払ってるわけだし)とまではいかないとは言え、厳しくもないようだ。
こうして時間を潰したあと、のんびりと内街へ戻る。一応警戒はしたが、以前に家族旅行(みたいなもの)で来たときのように、よからぬ事を考える輩はいないようだ。
まあ、刀と両手剣を持った男女に襲いかかろうと思うやつはそうそういない。
いるとすれば、よほどの理由を持ったやつだろう。それに心当たりがないわけでもないが、今この時点で仕掛けることはあるまい。リスクが高すぎるからな。
内壁の門番に通行証を見せて通り過ぎる。それなりの人通りがあるとは言っても、外の喧噪とは切り離された領域。こちらの落ち着きも嫌いでは無いのだが、どちらかと言えば外の方が好きではある。
そして俺たちは再び場違いな2人組となり、伯爵の屋敷――つまりはエイムール邸を目指すのだった。
エイムール邸に着くと、顔見知りな衛兵の人が頷いて通してくれたので、俺たちも会釈をして門をくぐる。その門の内側ではボーマンさんが待っていた。
「すみません、待ちぼうけさせてしまいましたか」
俺が焦って言うと、ボーマンさんはニッコリ微笑んで、
「いえいえ、お客様の前で失礼ですが、いい休憩になりましたし、待つのも仕事でございますので」
と返してくれたので、俺は胸をなでおろす。多分に謙遜と言うか、客に恐縮させてはいけないという職業意識もあるんだろうが、気にしていないならとりあえずはいいや……。
ボーマンさんが案内して通してくれた部屋では、カミロとマリウスが談笑している。
「皇帝陛下は?」
「お帰りになられたよ。あの件は一刻も早く取りかからないといけないし、この会談で時間を費やしている間にも仕事はどんどんたまっていくらしいからな。娘をよろしくと言付かっている」
「そうか」
侯爵はともかく、皇帝の方は帰る前に娘に会っていくのかと思ったが、それも出来ないくらい忙しいようだ。
「ごめんな」
「大丈夫よ。そうだろうなと思ってたもの」
そう言ってアンネは微笑んだ。我慢しているふうはない。もしかすると、そもそも時々しか話なんかは出来ていなかったのかも知れない。
彼女の新しい家族としては、話をする時間を増やせたらいいなと思う。
「よし、それじゃエイゾウたちも戻ってきたし、俺たちもおいとまするか」
少ししんみりしかけた空気を入れ替えるようにカミロがそう言って立ち上がった。
俺もつとめて明るく返す。
「そうだな。長居は無用だ」
「エイゾウ、時々はこっちに来いよ?」
「いやぁ、お前も忙しいだろうからなぁ」
マリウスの言葉にも笑いながら返し、俺たちは部屋を後にした。
さあ、新しい家族と帰るとするか。