探索者
「さて、あっちはそろそろ終わったかな」
「結構時間経ってるよね」
「ああ、でも今度は向こうが昼飯食ってる頃か。ちょっとぶらついてから戻ろう」
「わかったわ」
ぶらぶらと人でごった返す通りを歩く。今はちょうど昼頃で、露店で食べ物を売る店なんかも盛況だ。今日は随分使い込まれた様子の武器を帯びた人々があちこちにたむろしているので、俺とアンネも目立たない。
「あれは“探索者”かしら」
「そうだな。数が多いから大きな“遺跡”でも見つかったかな」
「王国は“遺跡”が多いから、まだ見つかってないのもあるんでしょうね」
この世界では昔に魔族とその他の種族の間で大きな戦争があった(そして痛み分けになった)が、それより更に前にも幾度か大きな戦争が行われていた、という言い伝えがある。
そのうちの何回かは魔族が勝ち、何回かはその他の種族が勝っている。そしてその時に、地上も地下も含めて少なくない数の建造物、特に軍事目的のものが放棄されている……らしい。今はそれらは「遺跡」と呼ばれ、時折当時の軍資金の一部やなんかが眠っていることもあるのだとか。
管理されていないそれらの宝物は、最初に見つけた者に所有権がある。まぁ、幾ばくかはその土地を治める領主に渡しておいたほうが無難らしいが。一攫千金を夢見てそれらの遺跡を捜索するのが「探索者」たちというわけだ。
とは言え、無限に遺跡があるわけでもない。そこで、遺跡が見つかってないときは便利使いや傭兵みたいなことをしているそうだ。
「情報を流すのには便利なのよねぇ」
あんまり良くない顔でアンネが笑う。この世界にいわゆる「冒険者ギルド」のような世界的に組織化されたものはない。
が、野盗スレスレの扱いしかされない彼らが、自衛のために情報交換を密にしていないわけがない。そこに乗っかって色々な情報を流せば、行商人以上にあちこちに出歩く特性上、それなりの広まりを見せる。
帝国ではそれを利用していた、ということだろう。いやまぁ、王国も共和国もしてるだろうし、それこそ侯爵もしてるんだろうけど。
「エイゾウは探索者になろうとは思わなかったの? 剣の腕もたつのに」
「ないね。俺はゆっくりのんびり暮らしたいんだ」
「帝国に来ればできたのに」
「あれもこれもとこき使われる未来しか見えないな」
「バレた?」
「そりゃあね」
そう言って俺とアンネは笑った。心底からは諦めていないのだろうが、今はもう積極的に帝国へという気はないようだな。
あんまり腹に一物も二物も抱え込んで、体調不良になられても困るから、いい傾向だと思う。
「でも」
「うん?」
「どうしても欲しい鉱石とかがあれば、少しは探索に出ることを考えるかも知れないな」
「なるほど。その時は……」
「俺1人では寂しいから、出来れば“家族”全員で行きたいな」
「そう」
俺の言葉を聞いて、アンネの顔がほころぶ。「家族」という言葉に含まれていることは察してくれたらしい。他の家族ともうまいことやってくれると良いのだが。
露店を冷やかしたりしながら、俺はこれから先のことをぼんやりと考えるのだった。




