おやっさん
俺とアンネはブラブラと内街――内壁の内側の街を歩く。着ているものは完全に場違い感のある男女が2人、それも男の方は北方人で革帯に刀を吊り下げ、女の方は巨人族で背が高く、背丈に負けず劣らずな大きさの両手剣を背負っているのだから目立つことこの上ない。
見た目も釣り合ってはないだろう。アンネはお姫様である。ディアナも伯爵令嬢だからなのか、やたら美人で釣り合ってないなぁと思うのだが、それに負けず劣らずだ。
だからだろう、時折興味を隠さずに見てくる人がいる。刀と両手剣の効果なのか場違いすぎるからなのか、声をかけてくることはないが。
道中、俺もアンネも特に言葉をかわさなかった。黙々と目的地に向かって歩いていく。やがて見覚えのある門にたどり着いた、内街と外街を隔てる内壁の門だ。
門番も遠慮なく視線を送ってくるが、これは職務上致し方あるまい。俺は懐から通行証を取り出して、門番に提示した。門番は通行証をあらためて、身振りで通っていいと示す。
俺とアンネはペコリと会釈をしながら通り過ぎた。
「わ」
門を出て少し歩き、大通りに出たところでアンネが目と口を丸くあけた。今日も都は人でごった返している。
「馬車から見たときはもうちょっと普通に見えましたけど、降りて見るとたくさんいるんだなってなりますね」
「そうですね。あれから時間も経ってますし、人出が増えてくるころですからね」
「なるほど」
視点が下がると密集しているように見えたりもするが、この場合は実際に人が増えているのとの相乗効果だろう。アンネは納得した後、行き交う人や露店を見回している。
大通りに出たことで服装については場違い感が薄れたが、男女で武器を帯び、北方人と巨人族という取り合わせはどうしても衆目を集めがちにはなる。
救いなのは内街よりも色んな人がいるここでは、不躾な視線を送って来る人の数がそう多くはないことだ。
「こっちです」
まだ事態は完全に解決していないこともあるし、あまり注目されるのも良くないので、俺は少しだけアンネを急かした。アンネは「わかりました」とだけ言って、俺のあとをついてくる。
その様子がなんだかルーシーが後をついてくるときのようだったので、思わず笑みが零れそうになるが、必死でそれを抑え込んだ。
大通りからおやっさんの店はそんなに遠くない。程なくたどり着いて、「ここです」とアンネを案内しながら入り口から入る。
ピーク前に間に合ったのか、客の姿はまばらだ。入ってきた俺達を見て、おやっさんの娘さんが席を示し、俺たちは武器を外して着席する。
「親父ー! またあの鍛冶屋が来たよー! 新しい嫁さん連れてるー!」
おやっさんの娘さんが厨房があるんだろう奥に向かって、ものすごく誤解のある内容を大声で叫ぶ。その答えはすぐにすっ飛んできた。「なにぃ!!」と言う大声とほぼ同時に思えるぐらいすぐにだ。
「エイゾウ! てめぇ他のかかぁはどうした!」
「彼女たちはかかぁじゃないよ。ついでにこの人も家族だけどかかぁじゃないからな。今日は伯爵閣下の用事で俺とこの人だけだよ。用事が済んで腹減ったから飯食いに来たんだ」
「じゃあ他のかかぁを見捨てたんじゃないんだな?」
「そんなこと、俺ができると思うか?」
「考えてみりゃおめぇにゃ無理だな!」
そう言っておやっさんはガハハハと大声で笑う。なんだ、嫁を乗り換えたとでも思ったのか。
「おし、そうと決まりゃあいつらにも手伝わせて腹いっぱい食わせてやっからな」
「今日は金払わせてくれよ」
「腕がなるぜぇ!」
俺の言葉を無視して、おやっさんは厨房に引っ込んでいく。俺は苦笑しつつそれを眺めながら、アンネに今のことと、これからのことをどう説明したものかと、少し頭を悩ませるのだった。




