性能試験
ヘレンがグルグルと肩を回したり、槍の柄を腰に当て腰を捻ったりして準備運動をしている。
その間に俺は庭に転がしてある丸太(元は狩りの獲物を運んだ運搬台)の中から、適当なものを立てておいた。簡易の的だ。
気がつけば、みんな外に出てきていて、それに気がついたクルルとルーシーも集まっていた。
「よっし」
衆目を集めるのは慣れっこなのか、全く意に介さず準備が出来たらしいヘレンが槍を構える。とりあえずは穂先を的に向ける形だ。引き締まった表情をしていて、周囲の空気の温度が下がったように感じた。
「フッ!」
ヘレンは相変わらずの速さで槍で的を突いた。瞬きよりも速く動作が終わっている。的に当たったときの音がほとんどしないのも動作の速度を速く見せているのだろう。
槍の穂は的に深々と刺さっている。
「どうだ?」
「うーん、ものはいいんだけど、やっぱり気持ち悪い!」
ヘレンは笑いながらそう言った。
「ほとんど手応えがないんだよな。今の感じは普通の槍ならせいぜい穂先が少し刺さったくらいだけど、見ての通り深々と刺さってるわけでさ」
「なるほどなぁ」
「慣れりゃ平気なんだろうけどな」
慣れるまでは手応えの違いに戸惑いがあって上手く扱えないかも知れないってことか。その辺は今後改善の余地ありだな。
職人らしく「武器に合わせろ」と開き直るのも手段ではあろうが、今回はともかく本来は個々人に合わせたものを製作するわけで、その人の感覚にも合わせて違和感なく、しかし性能は大幅に向上というのが理想形だろうし。
「じゃ、次は斬り払いだな」
「おう」
スッと槍を的から抜いたヘレンは今度は振りかぶるように槍を構えた。危ないので俺たちは距離をとる。クルルとルーシーもなんとなく察したようで俺たちと同じくらい離れていた。
「せりゃっ!」
ブン、と風切り音が聞こえたと思ったら振り抜かれていた。何を言っているか……は置いといて、超スピードなのは確かである。迅雷の二つ名は伊達ではない。
その後、ゆっくりと丸太が斜めにずり落ちていく。そこで断ち切られたのだ。
サーミャやリケが「おおー」と拍手している。ルーシーも分かっているのかいないのか「わんわん」とヘレンを讃えているようだった。
「斬れ味は問題なしか」
「そりゃコレだけ斬れて文句あるやつはいねぇだろ」
俺の言葉に呆れたようにヘレンが言う。他の家族も、そしてアンネもうんうんと頷いていた。こころなしかクルルとルーシーもそうしているように思えるが、気のせいだな、うん。
「斬ったときの感触に違和感はあるだろうが、他に気がついたことはあるか?」
俺が聞くと、ヘレンは少し距離をとったまま槍を振り回す。仮想の敵に向かって突いたり薙いだり、一つ一つの動作が様になっていてカッコいいな。
少しの間そうやって槍の具合を確認したあと、ヘレンは言った。
「うーん。いや、ないな。急造の柄にしちゃバランスも悪くないし。こいつは石突をつけるんだろ?」
「そうだな。そのつもりだ」
「じゃあ、これで平気だと思う」
つまり今はほんの少しバランスが前によっていて、石突をつければベストになるわけか。
とりあえず穂の性能試験としては問題なかったということだ。ほぼ間違いなく大丈夫とわかっていても、プロからそう聞くとホッとするな。
「それじゃコイツをあと3本仕上げちまうか。みんなは休憩してていいぞ」
俺はそう言って鍛冶場に戻る。その後をクルルやルーシーと一緒にはしゃぐみんなの声が追いかけてきた。




