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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第8章 帝国の皇女編

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いつもの商談

 一通りの話が終わると、マリウスと侯爵は部屋を出ていった。あんまり都を離れてもいられないのだろう。伯爵と侯爵が2人共都にいないって時点で色々勘ぐったりされるだろうしなぁ……。


「さて、じゃあ今度はうちの方の商談だ」

「おう」


 カミロは気軽に言い、俺も気軽に応える。俺は少し自分の心が落ち着くのを感じた。末端も良いところなのだろうが、政治の話には関わりたくないものだ。

 俺は入れてくれていたのに、すっかり冷めてしまった茶を口にする。茶があることすら今更気がついた。どれだけ緊張したかってことだな……。


「今日もいつものやつか?」

「いや、それがだな……」


 俺はそろそろ納品物を増やそうかと、今回は槍を新たに持ってきたことをカミロに伝えた。品質についても一番良いやつで高級モデルくらい、と言ってある。


「そいつが特注品と同じ品質なら、わざわざ今から作らなくても済んだのにな!」


 そう言ってガハハと豪快にカミロが笑う。いや、全くだ。知ってたらそっちも作って来たのに。知ろうにも向こうから連絡する手段がほぼないんだけどな。


「それで、勝手に作ってきておいて何だが、引き取ってもらってもいいか?」

「もちろん。お前の作るもんなら、売りようはいくらでもある」


 即答だ。リケが俺の視界の端でドヤ顔をしている。とりあえずはこれで一安心か。


「それじゃ、諸々を用意してこよう」

「すまんな」

「なぁに、これが仕事だ」


 カミロがニヒルに笑うが若干似合っていない。だがそれは胸のうちに秘めておく。今は番頭さんがいないので、カミロは自分で指示を出しに行くのだろう。部屋を出ていった。


「なんだか色々動いてるわねぇ」


 ディアナがフンと鼻を鳴らし、やれやれといった感じで呟いた。


「ディアナはこういうの慣れてると思っていたが」


 すっかり森の暮らしに慣れきった感のあるディアナではあるが、マリウスの妹、つまりは伯爵家令嬢なのである。悪役でなくてよかったな。

 ともかく、貴族であるならば、こうした話の一つや二つは聞いたり、実際に巻き込まれたりしてるもんだと思っていた。


「伯爵家と言っても武で鳴らしてる我が家に、まどろっこしい謀略を持ち込んでくる人なんてそうはいないわよ」

「ああ……」


 脳筋とまではいかないだろうが、あの家の雰囲気なら「ド正面からぶん殴れば良いのでは?」と言われそうだよな。むしろあれこれ出来るマリウスが特異点と言う気すらしてくるし。


「アンネさんのほうが慣れてるんじゃない?」

「え? ええ、まぁ、多少は……」


 急に水を向けられたアンネは一瞬面食らったようだったが、すぐに立て直した。うちに来てからのアレコレを考えれば、そういう経験は一度や二度ではあるまい。


「とりあえずはやるべき仕事をやって、平穏無事に過ごせるようにしよう」


 俺の言葉に皆――なぜかアンネもだった――が頷いた。早いとこ“いつも”に戻りたいものだ。


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