いざ納品へ
日々の作業で今回は納品物に槍を少し追加しておいた。と言ってもまとまった数ではなく、8本程度である。
グレードは3本が高級、5本が普通で、以前に大量に収めたのと同じ形にしてある。言われないだろうが、もしもいらないと言われても、万が一に備えてうちに置いといても困らない本数である。今は倉庫もあるしな。
生産能力としては俺の腕前が上がっているのか、剣もナイフも高級モデルの数を減らさずに済んだ。そうできる範囲がどこか、という話でもあるわけだが、この程度なら問題ないということだろう。
「親方は相変わらず凄い速度で作りますね」
「そうは言っても限界はあるぞ」
「それはそうなんですけどね。でも親方1人で3人……いや、それ以上の鍛冶師の仕事してますよ」
「そうか……うーん、それで仕事辞めてしまうのが出てくるのは本意ではないな」
「そのあたりは少し考えに入れても良いかも知れません。実際、量だけで言えばナイフや剣はこのあたり一帯に広まるほど納品してますし。親方がおっしゃったように、生産にも限界はありますし、カミロさんが手広くやっておられるので近々そうなるということはないと思いますが、こういうのも積み重ねですからね」
カミロが買ってくれるもんだから遠慮せずにバンバン作ってきたが、総数はそのままに槍以外にもバリエーションを増やすことを考えたほうが良いのかもな。
それも武器や防具といったものだけでなく、鋏(このあたりにはU字型のもX字型のもある)や鋸、鍋釜といった生活に近いものを作るのも楽しそうだし。そう言えば、以前は街の人達は買わないからと農具の生産を諦めたが、カミロに卸すなら鎌などの農具もありか。
ただ、それらはそれらでガンガン流通させるとまた問題になるかも知れない。また納品のときにでも聞いておくか。俺としては一家全員が一生食うに困らなければそれでいいのだ。
そんなことを考えながらも、日々を過ごせば納品日がやってくる。今回もアンネを残すかどうか迷ったのだが事態の進展があるかも知れないし、そのときにアンネがいたほうが都合がいい場合もあるだろうということで、布をひっかぶって荷物のフリをしてもらう必要はあるが、一緒に来てもらうことにした。
「いいんですか?」
「それはこっちのセリフですよ。だいぶ窮屈な思いをさせることになると思いますので」
「いや、それは全然平気なのですが」
「護衛は腕っこきが何人もいますし、安全は保証しますよ」
「それはもうこの目で嫌というほど見ましたので心配はしてないのですが……それじゃあ、お願いします」
こうして、翌朝、お出かけする面々にアンネも加わった。心なしかウキウキしている。狩りのときもテンションが上がっていたが、今回も負けず劣らずだ。
そんな姿を見てか、ルーシーのテンションも上がっていて、準備をする俺たちの周りをグルグルと回って、皆を和ませていた。
荷台に荷物を積み終えたら、リケが乗り込んで御者台へ。次に俺、アンネと乗って、アンネは荷物の影の目立たないところで布をかぶって座ってもらう。
ディアナ以外の家族が乗り込んだらルーシーとディアナの番だが、ルーシーが荷台から少し離れた。
どうしたのかと疑問に思っていると、ルーシーはそこから勢いよく駆け、まさに矢のように荷台の手前まで来たかと思うと、大きく跳躍する。
「おお」
俺はその光景を見て思わず声を上げた。ルーシーがジャンプして荷台に乗ったのだ。俺にはその光景がキラキラとエフェクトをまとったかのように見えた。
「えらいぞ」
そのままパタパタと近寄ってきたルーシーを撫でると、
「わん!!」
と誇らしげに胸を張るのだった。
なお、その後ディアナが少し寂しそうに荷台に上がってきたことも付け加えておく。