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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第8章 帝国の皇女編
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帰路

 カミロの店を出て帰り道、警戒は怠れないがのんびりとした時間が荷台を流れる。昨日まで雨を降らせていた雲もすっかり晴れて、太陽がさんさんと照りつけ、あまねく人々に祝福を与えていた。

 

 そんな街の道には、このところ外に出られなかった鬱憤を晴らすかのように様々な人々が行き交っている。

 出来ることなら何の憂いもなく、この時間を楽しみたかったところだが今は仕方あるまい。まだ交代の時間ではなかったのか、来るときに見かけた衛兵さんがまだ街の入り口に立っていて、俺たちは会釈をしながらそこを通り過ぎた。


 街道に出て速度を上げる。クルルの調子はいつもと変わらない。馬と同じくらいか少し早いくらいだ。うちの荷車は簡単な仕組みではあるが俺特製のサスペンションがついているので、他の馬車よりも速度を上げることが出来る。

 しかし、周りからはクルル……つまり、走竜が牽いているから速いように見えるだろう。一種のカモフラージュと言うわけである。

 そう言えば、以前にカミロがこのサスペンションの量産も近いと言っていたが、今はどれくらいまで進んでいるんだろうか。次来たときにでも聞いてみるか。


 青と緑と茶色の3色の中を竜車は進んでいく。今日襲いかかってくるなら、ここが最後のチャンスだろう。俺たちは周囲の警戒を強める。

 あたりに目を走らせながら、ヘレンが俺に言った。


「前から気になってたんだけどさ」

「おう」

「街から出てすぐに森に入らないのか? 街から見えなくなるくらいのところから入ってしまえばいいだろ?」

「ああ」


 今のような状況だと、狙われやすい街道を行く時間は少ないほうがいい。であれば、森に出入りしてます! と誇示せんばかりにならない程度のところで、さっさと森に入って行方をくらませたほうがメリットはあるだろう。

 普段でもわざわざ目立つ街道を長い時間行く必要はない、と言われたら否定はしにくい。だがしかし、である。


「家に到着する時間が段違いなんだよ」


 前の世界のようにアスファルト舗装の道ではないと言えども、そこは整備された道である。全く誇張なしに人の手が一切入っていない森の中を、荷車が通れる範囲を探りつつ行くよりも格段に速度が出せる。

 結果、時間にして相当な差が出てくると言うわけだ。午後にも仕事以外の作業なんかをするにしても、その時間は長いほうがいいしな。

 今回の場合は家に人を残してあるし、一刻も早く安否を確認できるという意味でもメリットがある。そのため、街道を急いでいるということだ。それにこっちを行ったほうが“いつも通り”だし、もし見張っているやつがいたときに異常を察知されにくい。


 アスファルト舗装の話はともかく、俺はそんなような説明をヘレンにする。


「なるほどねぇ」

「まあ、もっと切羽詰まっていたら、さっさと森に逃げ込んだほうがいいかも知れんが、まだそこまでではないと俺は思ってる。……甘いかな?」

「いや、大丈夫だろ。向こうさんが何に手間取ってんのかは知らないけど、モタモタしてるってことはまだ事態がヤバいことにはなってない、ってことだからな。向こうが本気なら、森から出た時点でとっくになんかされてるだろ。ま、今も気は抜けないけど」


 あまり頭は動かさずに、目だけ――に見えるけどきっと気配も探っているんだろう――で周囲を警戒しながら、ヘレンはそう続けた。


「無事に帰れるよう、周囲の警戒はキッチリしなきゃな」


 俺がそう言ってヘレンが頷いたとき、街道に近い草むらがガサリと揺れ、荷車の上には緊張が走った。


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