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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第8章 帝国の皇女編
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葬送

 埋められていなくて良かった、と言うべきか。その辺りの葉がついたままの木の枝などで覆い隠され、一見すると下生えのようにしか見えないそれは3つあった。

 俺とサーミャは覆いかぶさっていた物を慎重に取り除ける。すると3体の遺体が現れた。

 長いこと雨ざらしだったことを差し引いてもあまり身なりが良いようには見えないが、これは偽装だろう。品質自体は結構良さそうだからだ。


「辛いとは思いますが、この姿に見覚えありますか?」

「……はい」


 ぐっと下唇を噛んでアンネは答えた。俺はそれを見て3人の遺体に手を合わせてから、そっと目を閉じた。


「申し訳ないですが、遺体はここに埋葬します。獣に掘り起こされないようなるべく深く。身元がわかるようなものがもしあれば、今のうちに外しておいてください」

「わかりました」


 ヘレンが周囲を警戒する中、アンネはゆるゆるとした動きで遺体が身につけていたものを外す。それはネックレスだったり、ナイフだったりだ。

 殺された人たちもアンネもある程度の覚悟はあっただろうが、だからといってそれが現実になったときにショックを受けない道理はない。手が小刻みに震えているのが分かる。

 こういうときに何か気の利いたことの一つも言えればいいのだが、うまい言葉が見つからない俺は黙ってそれを見つめているしかなかった。


 やがてアンネが遺体のそばを離れる。


「終わりましたか?」


 コクリとアンネが頷いた。大丈夫でないのは分かりきっているので、「大丈夫か」とは聞かない。この後、遺体を埋葬する穴を掘るが、それはアンネにやらせなくてもいいだろう。

 ディアナにアンネを引き取ってもらい、俺とサーミャ、ヘレンで穴を堀り始めた。


 穴を掘るのには随分と時間がかかった。人間3人分となれば当たり前ではあるのだが、それ以上に人死という事実が重くのしかかっていたからだ。比較的こういった状況に慣れているヘレンがいなければ夕方を過ぎて夜中までかかっていたかも知れない。

 一応念の為にと松明を持ってきてはいるが、今以上に暗くなったら作業が困難になることは間違いない。そうなる前で助かった。


 アンネを遺体のところに呼び戻す。辛いだろうが、お別れはさせておいてやりたい。これが最後になるだろうし。


「一緒に入れましょう。私がこちらを持ちます。アンネさんはそちらを」


 足元の方はサーミャとヘレンに頼み、頭に近い方を俺とアンネで持って穴の中にそっと横たえる。

 この事態に全く無関係でない以上、この重みのいくらかは俺も引き受ける義務があるな。そんな事を考えながら。

 3人が穴の底に並ぶと、アンネはそれぞれの手をギュッと握る。彼女なりの別れの挨拶だろう。ゆっくりと、地面に染み込んでいく雨のように別れを惜しむアンネ。俺たちはそれをじっと見つめた。


 アンネが別れを終えたら、土をかぶせる番だ。シャベルの1つはアンネに任せた。彼女はうつむきながらそっと土をかぶせていく。

 姿が見えなくなっていくにつれてその動きがゆっくりになっていくが、俺とヘレンがその分の土をかぶせ、完全に姿が見えなくなったところで、再びアンネをディアナに任せた。

 俺とサーミャとヘレンで完全に土を被せきると、そこにその辺りの枝で墓標を3つ作って、小さな築山に刺し、全員を呼ぶ。


「願わくば、あちらでの安寧が得られますよう」


 俺は手を合わせて頭を下げ、そうつぶやいた。他のみんなもそうしているのか、それを知ろうとするだけの心の余裕は今の俺には存在しなかった。


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