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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第8章 帝国の皇女編

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森を抜ける

 今日の雨は弱く、森の中に入るとかなりが遮られているようで、思ったほどは当たってこない。

 ただ、風に吹かれたり、重みに耐えかねて落ちてくる雨粒もある。それらが時折外套に当たって、ボツボツと重い音を立てていた。


「クルルル」


 それらは俺たちと比べて遥かに体の大きなクルルにも当たって、それがくすぐったいのか、当たるたびに声を上げていた。前の世界のアニメ映画で似た感じのがあったな。

 ルーシーはと言うと、相当にグズったのか、ディアナが諦めて走り回るに任せている。地面のぬかるみもお構いなしだから、元の毛色がどうだったのか分からないくらい泥まみれになっていた。帰ったらしっかり洗ってやらないとな……。


「そう言えば、ここへはどうやって来たんです? 場所を知っている人間はごくごく限られるはずですが」


 歩きながら、俺はアンネにそう聞いてみた。調査したのか、カミロに交換条件でも持ちかけてみたのか。


「それは……秘密です」


 アンネの答えは想像通りと言えば想像通りのものだった。まぁ、教えて貰えるとも思ってはいなかったが。

 帝国の調査能力にせよ、交渉能力にせよ、それらをわざわざこちらに教える必要がアンネには無いし。

 俺は小さく鼻を鳴らして、ちょっとばかりの不快感と納得を示した。


 時々雨だれが落ちてくる緑の屋根(屋根にしては雨漏りが随分とひどいが)を見上げながら、


「今日はマシだとは言っても、こう雨が続くと狼達もうんざりしてそうだ」


 と俺が言うと、サーミャが答えた。


「かもな。狼だけじゃなくて、鹿もうんざりしてんのかも。長雨の後の晴れた日はよくボーッと突っ立ってる」

「注意力が散漫になってるから狩りやすい?」

「そうだな。普段だと気づかれるところでも気づかれない。だからアタシらはこの時期に狩りを学ぶんだよ」

「なるほど」


 鹿は警戒心が強い上に嗅覚に優れる。聴覚や視力は人並みくらいらしいのだが、逆に言えば人並みに警戒は出来るということでもある。3日追って1頭仕留められれば、十分に熟達した猟師と言えるそうだ。1日のうちに1頭仕留められるのは、5年ずっとこの森で暮らしてきたサーミャの知識と経験によるところがかなり大きい。

 ただ、俺達にとって狩りやすいということは、狼や熊たちにとっても同じ話だろう。この時期に狼が子を産むのと関連はありそうだ。

 こうして「雨季の後の動物たち」の話をしながら、森の中をのんびり歩いていった。


 もうすぐで森の入口だな、と思ったとき、アンネが切り出した。


「あの……この背中のものの代金なのですが……」

「……ああ」


 すっかり忘れてた。家族のみんなも言ってくれていいのに。


「言い値で良い、ということでしたね?」

「はい。うちはそういうふうになってます」

「それでは」


 アンネはゴソゴソと自分の服の内側を探って、革袋を取り出した。そこそこの大きさがあって重そうだから、金だとしたら結構な額が入っているはずだ。もしかすると、金での買収も視野に入れていたのかも知れない。

 俺が「金は後払い。お代は言い値で結構」とか言ったもんだから、「こいつは金に興味がない」と判断したんだろう。結果的にその判断“も”正しいのだが。


「それでは、これで」


 アンネが革袋から何枚かの金貨を取り出して渡してきた。さすがに革袋まるまるではないらしい。俺はその金貨を受け取る。何度か受け取ったことがある金貨とは何かと違う面が多い。

 俺が思わずしげしげと眺めていると、


「帝国大金貨です。それ1枚で王国金貨5枚分くらいにはなるかと」


 アンネが言う通り大きさが大きいし、金の純度も違うのか重い。それが10枚ほどあるということは、金貨50枚前後になる。大きいだけで作りは単純だし、これだけ貰えれば十分に過ぎる。


「なるほど。まいどあり」


 俺はお定まりの台詞を吐いて、金貨を懐にしまい込んだ。王国金貨への両替は……そのうちカミロに頼むとしよう。と言うか、やつ以外に任せたら怪しいことこの上ないしな。


「そろそろですね」


 小さな雨音にかき消されるかどうか、という大きさのリディの声を聞いて、俺は森の外を見やった。


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