お買い物開始
「こっちは手練れの剣士が3人。ドワーフも獣人もいるし、エルフは魔法も使うぞ」
俺はそうハッタリをかましてみた。リケは自衛が出来る程度だし、サーミャは身体能力は高いが、白兵戦はあまり得意ではない。
リディに至っては魔法が使えるのは確かではあるのだが、都のように魔力が薄いと十全に使えるかどうか。
とは言え、カツラを被ってそれとはわかりにくいが”迅雷”ことヘレンと、それに渡り合った剣士(俺のこと)がいるのだ。
それだけでも十分なのに、ディアナもそこらの人間には負けないくらいに強い。なんせここ最近はヘレンにみっちり稽古をつけて貰っているのである。滅多な相手には負ける気がしない。
つまり、連中は俺たちに気付かれた時点で負けているのだ。問題は連中がそれを理解出来るかどうかだ。
ジリジリと後退していく3人。失敗を悟ったなら立ち去るのが正解なのは間違いない。
やがて3人は脱兎のごとく駆け出していく。
「次見かけたら容赦しないからな!」
その背中に俺は大声をかけた。とりあえずは一段落か。だが、この瞬間を狙っている輩が他にもいないとは限らないので、警戒は解かずに本来の目的地へ移動する。
「びっくりしました」
「私もです」
その道すがら、リケとリディがそう言った。サーミャは臭いである程度は分かっていたが、人が多いとその臭いも紛れてしまうので特定が難しかったらしい。
「あいつらにも言ったが、手練れと獣人で4人も優秀な護衛がいるんだ。貴族様でもこれ以上はなかなか望めないし、安心してくれていいぞ」
俺は少しおどけて言った。少しでも2人の緊張がほぐれるといいんだが。
「あの森を思い出しますね」
その様子にクスリと笑いながらリディが言った。俺がリディの護衛として洞窟に突っ込んで行ったときか。
「あの森って?」
それを聞いたヘレンが不思議そうな顔をする。
「ああ、実はリディが俺の家に来るキッカケはな……」
移動しながら、その時の話をする。店につくまで、ヘレンは目をキラキラさせながら俺の話を聞いていた。こういう話好きなんだなぁ。今度熊退治の話もしてやるか。
「ここよ」
ディアナが示した店はなかなか立派な構えの店だった。流石にショーウィンドウはないが、前の世界の雑貨屋のような雰囲気である。
取り扱い品を考えれば似たような雰囲気になるのは当然か。
中に入ると、平台にいくつかのアクセサリーが並んでいる。金色や銀色に輝いていて、なかなかに凝ったデザインをしている。
金色で安いのは真鍮なんかの金でない金属、中間は金メッキ、高いのは純度が低い金のようだ。純金製のものはこういうところに並べないのか、見当たらなかった。
こういうところで純金のを売っても買っていく客が極端に少ないだろうし、そもそも売ってないのかも知れないが。
銀の方も値段は様々だが、こちらは純度とデザイン、つまりは加工に要した時間の違いみたいだな。地味にチートがその辺を教えてくれている。生産と少し鍛冶が関わるからだろう。
こういう店に来たことのないメンツ――まぁ、ディアナと俺(前の世界込みだけど)以外の全員があっけにとられている。
なんかすごいものが並んでる!って感じなんだろうな。
「どういうのが良いか、探せよ」
「って、言われても分かんねぇなぁ」
俺の言葉にサーミャが返す。まぁそりゃそうか、サーミャは髪飾りをつけているけど、それ以外はシンプルだ。ネックレスを下げまくったりしてると引っかかりそうだもんな。
「私が見繕ってあげるわよ」
ディアナがどーんと胸を張って言った。
貴族のお嬢様の見立てなら間違いあるまい。俺は外見もそうだが、中身はそれ以上にオッさんなのだ。
そのへんのセンスはないのでお任せするが、休日に買い物に付き合うお父さん状態になるのは避けたい。
なるべく参加はしなきゃなと、さっきまでの警戒以上に気を引き締めるのだった。