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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第7章 アポイタカラ編

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おやっさんの店

 まずは腹ごしらえだ。ある場所を目指して、俺たちは内街を歩いて行く。この辺りの貴族が住んでるところは、まだ人通りもそんなに多くはない。

 ディアナによれば「外街も大体知ってる」とのことで、サンドロのおやっさんの店の場所を聞いてみると、心当たりがあるようなので案内をお願いしている。

 外街を知っている理由については秘密のようなのだが、ボーマンさんが苦笑していたから、多分兄弟と抜け出して行ってたとかだろうな。


 迷いなく進んでいくディアナについて行くと、やがて門が見えてくる。外街とこの内街を区切る門だが、いざ事が起こればここも封鎖して(当然、外壁の門も閉じられる)障害にするのである。

 なので、門のそばの建物は他の建物に比して高く作られていて、衛兵の詰め所になっている。

 見上げると、警戒をしているらしき兵士が建物の上にもいるのが見えた。


 衛兵にディアナが札を見せて、軽く敬礼をする彼の横を通り過ぎる。戻るときは再びこれを見せると言うわけだ。

 万が一盗まれた場合だが、帰りがあんまり遅いときはエイムール家の誰かがここまで迎えに来てくれることになっている。だが、なるべくならその手間はかけさせたくないな。



 外街へ出ると、一気に喧噪が増してくる。街には度々行っているし、さっきも通ってきたから喧噪そのものに違和感はない。

 ただ、街では見ないような種族がいたり、人の数も段違いに多い。これは人混みが苦手な人だと人酔いしてしまうかも知れない。


 ディアナが先を行く。しかし、人でごった返す中をスイスイと行ってしまうと、慣れているディアナやヘレン、俺(前の世界での話だが)はともかく、他の3人がはぐれてしまうかも知れない。

 俺が声をかけようかと思ったとき、ディアナはスッと歩く速度を落とした。どうやら同じ事を考えたらしい。


「はぐれないようにな」


 俺はサーミャとリケ、リディに声をかけた。全員で距離を詰めて歩く。

 女性の中に男、それもオッさんが1人だけ紛れていて、人間が3人、他の種族が3人でしかも1人はエルフ、という状況だ。

 しかし、エルフがあまりに物珍しすぎるのか、はたまたヘレンが周囲に目を走らせてくれているおかげか、変なちょっかいをかけてくるヤツは今のところいない。

 もしいれば、うちのナイフの切れ味を示さないといけなくなるので、なるべくなら勘弁して欲しいところだ。


 ヒヤヒヤしつつ、周囲に気を配りつつ、なんとか何事もなくおやっさんの店に辿り着いた。

 ”金色牙の猪亭”と文字が書かれた看板には、そのまま牙の部分が金かあるいは真鍮で象嵌された猪のレリーフが彫られている。

 黒の森にいる猪とは少し違うように見えるから、別の種類かも知れない。

 俺たちは採光も兼ねているのだろう、開け放たれた入り口から中に入る。


 まだ昼飯には少し早めの時間だが、なかなかの客入りだ。人気店だというおやっさんの自称は嘘ではなかったらしい。


「いらっしゃ~い」


 入ってきた俺たちを若い女性の店員さんが出迎えてくれた。


「あっちのテーブルが空いてるわよ」

「ああ、ありがとう」


 派手でない上着とスカートに、エプロン姿のその店員さんに示されたテーブルへ俺たちは着いた。


「さーて、何を食べようかな。都の名物って何なんだ?」

「うーん、下町でおいしいのと言ったら、羊の煮込みかしらね」

「ほほう。それはうまそうだ」


 固くても良いからそこにパンをつけたり、野菜系の何かを頼めば良さそうだな。

 その辺は適当に任せるか。そう思って注文しようとすると、覚えのある声が聞こえてきた。


「あれ?エイゾウの旦那じゃねぇですかい?」

「おお、ボリスじゃないか。元気にしてたか?」

「ええまぁ。おやっさんに怒鳴られる以外には何もねぇです」


 そう言ってボリスと俺は大笑いする。


「ああ、ここに座ってるのがうちの家族だ」


 座っている家族の皆を俺が紹介すると、ボリスは口笛を鳴らした。


「これはまた……旦那、モテるんですねぇ」

「言っておくが、嫁さんではないからな」

「へいへい。あ、おやっさん呼んできやす。おやっさーん!」


 全然信用してない口調でボリスはそう言って奥に引っ込む。かと思ったら、すぐに馬鹿デカい声が飛んできた。


「なにぃ!?エイゾウが!?」


 相変わらずだな、おやっさん。俺は思わず笑みを漏らす。

 ドスドスと床が揺れている錯覚すら覚えさせるような足音で、背は低いがガッチリとした身体の中年の男性がやってきた。

 この店の主、サンドロのおやっさんである。


「ドワーフ?」


 リケが思わずそう言ってしまうのも無理はないが、おやっさんは頭のてっぺんから爪先まで人間だ。……そのはずだが、遠い先祖にドワーフの血が混じっていて隔世遺伝で特徴が現れている可能性は否定できない。

 

「よう、おやっさん。都に来るついでに寄ってみたよ」

「なんでぇ、うちはついでかよ!」


 俺の言葉におやっさんがぶんむくれた。


「冗談冗談、都に来るんだから、ここも目的の1つだよ。言っただろ、来るって」

「おう、ありがとよ!」


 主目的ではないにせよ、ここへ来るのも楽しみの1つだったのは間違いない。


「で、こっちがお前さんのカカァ達かい?」

「家族なのはそうだけど、嫁さんではないよ。前も言ったろ」

「そうだったか?別嬪さん揃いだなぁ!エイゾウがこうも隅に置けないたぁ思わなかったぜ!」


 そう言って呵々大笑するおやっさん。うちの家族の視線が冷たくなっていくのを感じて、俺は話題を変える。

 

「ま、まぁ、そんなわけでせっかく来たし、なんかオススメあったら作ってくれよ」

「おう!任せとけ!」


 おやっさんは力こぶを作って――料理人であるということが信じられないくらい盛り上がっていた――厨房に引っ込んだ。



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