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鍛冶屋ではじめる異世界スローライフ  作者: たままる
第7章 アポイタカラ編
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家族旅行へ行こう

 鍛冶場に戻った俺は、次の備中鍬に取りかかる。リケも自分で備中鍬を作りはじめた。

 ここからはタイムアタックみたいなもんか。明日は都へ家族旅行だから、今日は2人併せて10本も出来れば御の字ということになる。

 俺とリケが鍬を打つ間も柄と板金がドンドン出来ていく。作業難易度が段違いというのはあるが、サーミャ達の腕が上がっているのも大きい。


 以前までと比べると1.2倍くらいは早いように見える。

 数字にすると大したことがないようにも思えるが、以前までなら10個作る間に12個、50個作る間に60個と考えるとなかなか大きな差になってくる。

 今回のように”数打ち”が必要な場合は特にそうだ。


「みんな腕が上がったなぁ」

「そうか!?」


 しみじみと俺が言うと、サーミャが耳をピコピコと動かしながら嬉しそうにしている。


「ああ。なぁ、リケ」

「そうですね。間違いなく上達してるかと」

「やった!」


 目立って喜んでいるのはサーミャだが、ディアナもリディもそれぞれ控えめにだが喜んでいる。

 ヘレンは……まぁ、まだ来たばかりだからな。焦らずゆっくり上達すれば良い。

 俺がそんなようなことをヘレンに伝えると、ヘレンは力のこもった目で頷いて、お互いに自分の作業に戻った。


 この日は目標の10本を超えて11本製作することが出来た。俺が7本、リケが4本である。


「やっぱり親方にはかないませんね」

「そりゃまぁ、親方だからなぁ。弟子に簡単に超えられるようじゃ困る」


 俺は笑いながら言う。チートの生産速度にこれだけ追いつけている時点で、リケの腕も相当なものだと思うのだが、それは言わずにおいた。


 翌日。今日は都に行く日だ。とは言ってもなにか特別な用意をするわけでなく、街へ行く日とそう変わらない。

 服装もディアナがちょっとおめかし気味なくらいで、いつもとそう変わらない。都のほうが多種多様な人々がいる分、他人の格好を気にする人が少ないように思う。

 無論、身分や場面に相応しい服装というのはあるが、単に街を見物するくらいならそういったことを気にする必要もないだろう。


 身を守るための武器の類も荷車には積んでいくが、都に着いたら体に帯びる武器はナイフくらいの必要最低限のみに抑えるつもりである。無用な争いを起こしたくもないし。

 まだ日が昇りきらない、薄明の間に、いつもの納品物を載せていない荷車をクルルに繋ぐ。

 皆で荷車に乗り込んだ(ルーシーはディアナが乗せてやった)ら、いつもより早いが出発だ。

 リケがいつものように手綱を操るが、クルルはこちらを振り返って動かない。荷物を積んでないからだろうか。


「今日は荷物は積まないよ。その代わり遠くまで行くから」


 俺が振り返ったクルルに声をかけると、クルルは「クル」と小さく頷いて、歩きだした。


「荷物を積み忘れてると思ったのかな」

「クルルちゃんは賢いですね」


 リケが手綱を操りながら感心している。それには俺も同意しか無いので「そうだな」と頷いた。


 森の中の道を行くときは、基本サーミャが鼻と耳を使って警戒し、森狼の群れなんかにぶつかりそうならそこを避けて通る。これは街へ行くときと変わらない。

 一度、鹿がいるらしいところ(俺には姿も見えなかった)を迂回した以外は特に何事もなく森を出た。


 森を出たら街道だ。いつもなら街へ向かう方へ行くが、今日はその反対方向だ。俺が指示を出して、リケが手綱を操る。クルルは一瞬躊躇したが、すぐに手綱の指示に従った。

 しばらく街道を進む。草原と森と道。風景自体は街へ行くときと変わらない。ただ、その位置が逆だ。

 サーミャが言う。


「いつも帰り道に見る風景を行きに、それも日が昇る中を見るって、不思議な感覚だな」

「そうだねぇ」


 俺は何回か都に行ったことがあるから違和感もないが、サーミャはこっち側へ来るのはおそらく初めてだ。

 完全に未知の風景ならゼロからだから純粋に楽しめるだろうが、なまじ見たことある風景なので違和感が出てしまうのだろう。

 リケも同じだったようで、サーミャの言葉に同意の声をあげた。他の皆はピンと来ていないようだ。リディやヘレンはまだこの辺にも慣れてないからだろう。

 ディアナは元々都住まいだし、街はエイムール家の所領なので、慣れているのかも知れない。


 俺たちが街道を行く中を、朝日が昇って茜色に染まった世界が、色を取り戻したかのように緑と青、そして引かれた茶色の線になっていく。

 なかなかに美しい景色だ。絵心があれば、絵にでもしたいと思うほどには。

 この分だと都についてもいい天気だろう。この幸先の良さで、今日一日、皆と楽しく過ごせると良いのだが。

 そう思う俺を乗せて、クルルの牽く竜車が街道を進んでいった。



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